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第14話 旅路 ③
僕たちを温かく見守ってくれていた太陽が、燃えるようなオレンジ色の残光へと変わっていく。
「今夜はここで馬車泊(ばしゃはく)にする」
レオンは街道から少し外れた大樹の袂に旅馬車を止めた。
旅に出てから二日ほど、僕たちはこうして馬車の中で夜を明かしている。
けれど、安全な車内で眠らせてもらっているのは僕だけだった。
レオンは『何があるか分からないから』と言って、毎晩馬車の傍らで焚き火を絶やさず、警護をしてくれている。
だからこそ、ネロもラルゴも、そして僕も安心して体を休めることができるのだ。
(だから僕は、これ以上我が儘を言って彼を困らせちゃいけないのに……)
いつものように手際よく馬車から降りたレオンは、火床を整え、夕食の支度を始める。
食材はマルコさんから分けてもらったパンや瑞々しい野菜だ。
肉類は、調理した際の匂いが夜の獣を寄せ付ける恐れがあるため、あえて使わない。
「レオン、僕も何か手伝うよ」
旅馬車から降り、服の袖口を捲り上げて、自分にできることはないかと周囲を見回す。
けれど、木製の食器はすでに並べられ、焚き木用の小枝も綺麗に積まれていた。
「腹が減ったのか? すぐに作るから待ってろ」
大きな手で頭を優しく撫でられ、ふわっと胸の奥がくすぐったくなる。
けれど、今は甘やかされたいわけじゃない。僕は気持ちを切り替えるように、頭を左右に振った。
「そうじゃなくて、僕も何か手伝いたい。レオンの役に立ちたいんだ」
日中、重い手綱を引いてくれているのはレオン。
三食の準備をしてくれるのも、安全に寝泊まりできる場所を探すのも、夜中の見張りも、すべてレオンが一人で背負っている。
僕は何一つしていない。
ただずっと、守られているだけ。そんなの、対等な伴侶とは言えない。
「これは俺がやりたくてやってるんだ。だからシリエルは、何も気にしなくていい」
そう言ってまた愛おしそうに抱きしめられ、頭を撫でられる。あまりの心地よさに顔がにやけそうになってしまう。
……いや、待て。これではなんだか、上手く丸め込まれている気がする。
「僕が言いたいのは、そういうことじゃない。僕もちゃんと、レオンの支えになりたいって言ってるんだ」
不満のせいで、自分の唇がどんどん尖っていくのが分かった。
それに対してレオンは、僕がなぜ怒っているのか本当に分からないという風に、火床にしゃがみ込んだまま首を傾げている。
この不器用な男には、具体的に言わないと伝わらない。
「じゃあ、僕に火の起こし方を教えて」
「……危ないから駄目だ」
レオンは頑なに首を振ると、胸元から手慣れた動作で火打ち石と火打ち金を取り出し、火口(ほくち)に火花を落とそうとした。
「待って、待ってってば。危ないのは、間違った方法でやるからでしょ? レオンがちゃんと隣で教えてくれれば危なくない。それに……僕、自分の『初めて』は、全部レオンに教えてもらいたいんだ」
これからの僕の人生において、物事を教えてくれる先生は、レオンただ一人がいい。
「僕の初めては、全部レオンがいい。……駄目、かな?」
それでも拒絶されたらどうしようと、レオンの様子を窺いながら下から覗き込む。
するとレオンは、突然動きを止めると、右手で自分の両目を覆うようにしてオレンジ色の空を仰いだ。
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