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第19話 甘い朝 ②
「こんなに体が熱いのに?」
納得がいかなくて、僕は彼の両頬を自分の手のひらでぎゅっと挟み込み、無理やり視線を固定させた。
「熱じゃなくて……その、あまりにも自分が、恥ずかしくて……」
「恥ずかしい?」
これまでどんな過酷な任務も冷静にこなしてきたレオンが、一体何を恥ずかしがることがあるんだろう。
僕が不思議そうに首を傾げていると、レオンは決まり悪そうに視線を泳がせた。
「シリエルと伴侶になれたのが、まともじゃないくらい嬉しくて、浮かれてあんな真似をしちまったからだ」
「あんな真似?」
「ああ。シリエルがあんまり可愛かったから……つい、起きがけに額に口付けなんて、柄にもないことをした」
言葉の意味を理解した途端、今度は僕の顔から火が出そうになった。
あまりの気恥ずかしさに、挟んでいたレオンの頬から手を離しそうになる。
「今、俺はシリエルを独り占めできている。その事実を噛み締めているだけで……なんだか、胸がいっぱいになるんだ」
視線こそ合わせてくれないけれど、レオンの飾らない、真っ直ぐな想いが鼓膜に叩き込まれて、僕の胸の奥も瞬く間に熱いもので満たされていく。
「僕もだよ」
この、身体中が温かくて甘痒くなるような幸福をどう表現すればいいか分からなくて、僕は力の限りレオンの分厚い胸に抱きついた。
「僕だって、浮かれてる。レオンに触れられたら、それだけで心臓が飛び跳ねて、本当に寿命が縮まりそうなんだよ」
僕の本音を聞いたレオンは、案の定、照れ隠しのように僕の体を慌てて引き離そうとした。
けれど、離されてたまるかと、僕はさらに力を込めて彼の腰にしがみつく。
「本当に寿命は縮まらないから大丈夫。ただ、心臓がそれくらい激しくドキドキするんだ。伴侶になれて浮かれているのは、レオンだけじゃないんだからね」
薄い麻のシャツ越しに、レオンの頑丈な胸板に耳をぴったりと押し当てる。
上着を着ていないせいか、レオンの胸の奥から、ドクドクと早鐘を打つ熱い心音が、僕の耳へとダイレクトに鳴り響いていた。
僕たちは、今、間違いなく同じ世界を生きている。
僕たちの間には、もう見上げるような分厚い壁も、飛び越えられない深い溝もない。
触れ合える、こんなに近くに彼はいる。
誰の目も、王宮の冷酷な縛りも気にせず、ただの伴侶として生きていられる。
「レオン……あの場所から、僕を連れ出してくれてありがとう」
心からの感謝が、自然と言葉になって溢れた。
真っ直ぐな言葉を、真っ直ぐに大好きな相手へ伝えられる。これこそが、僕がずっと求めていた本当の幸せなのかもしれない。
「俺こそ……一緒にいてくれて、ありがとう」
あの不器用で、普段は口数の少ないレオンが、顔を真っ赤にしたまま僕の言葉に応えてくれている。
「これからは、お前に伝えたいことは、その瞬間に全部伝えていく。もう、伝えられないまま引き裂かれて後悔するのは嫌なんだ。……大好きだ、シリエル」
レオンは僕の銀色の髪を優しく一束掬い上げると、愛おしそうにそこに唇を寄せた。
「っ!」
急激に男としての独占欲を剥き出しにしてくるレオンの変貌ぶりに、僕の心臓のスピードが完全に追いつかなくなる。
「し、刺激が……強すぎるよ……っ」
今度は僕の方が耐えきれなくなって、彼の胸元へと視線を外してしまった。
「慣れろ」
レオンは僕の髪を大きな指先で揺らし、弄びながら、低く楽しげに囁いた。
「もう……!」
嬉しいけれど、このままだと本当に心臓がもたない。そう思っていた、その時だった。
街道の脇に生い茂る草の茂みから『ガサリ』と乾いた葉が擦れ合う、不穏な音が響いた。
一瞬で、レオンの顔つきから甘さが消え失せる。
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