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第20話 怪我を負った子犬
素早い身のこなしで僕を自分の背後へと隠すと、同時に腰のベルトに下げていた短剣の柄へと鋭く手を伸ばした。
両足をジリリと踏み開き、完璧な戦闘態勢へと移行する。
その背中は、かつて王宮で僕を守っていた無敵の騎士そのものだった。
「シリエル、俺が合図したらすぐに荷台の中に隠れろ。いいな」
音のした方向から一切目を離さないまま、レオンが低く緊迫した声で指示を出す。
「うん……っ」
僕が小さな声で返事をした、まさにその瞬間。
激しく揺れた草の茂みを掻き分けて、赤茶色い毛並みを持った『何か』が、地面へと力なく倒れ込んできた。
レオンは短剣を構えたまま、鋭い眼光でその物体の正体を見極めようとする。
「犬、か?」
ぽつりと、彼が警戒を孕んだ声で呟いた。
「念のため、シリエルは荷台に入っていろ」
レオンに促されるまま、僕は急いで馬車の荷台へと戻り、小さな隙間から外の様子を見守った。
僕の安全を確認したレオンは、ゆっくりと間合いを詰めながらその物体へと近づき、やがて短剣を収めて地面へとしゃがみ込んだ。
そして、その『何か』を大きな両腕で優しく抱き上げる。
「他の獣にやられたみたいだ」
振り返ったレオンの腕の中にいたのは、赤茶色の毛並みに、どす黒い血のりがべっとりとこびりついた、小さな子犬だった。
「その子、見せて」
レオンに抱きかかえられた子犬は、ぐったりと四肢を脱力させているものの、微かに息はあった。
小さな胸元にそっと耳を当てて心音を聞くと、脈もきちんと刻まれている。
傷口に触れてしまわないよう慎重に診ると、脇腹のあたりから濃い鉄の匂いが立ち上っていた。
どす黒い血のりがべったりとこびりついていて、この状態では傷がどこまで深いのか判別がつかない。
「レオン、荷台から清潔な水と、マルコさんからもらった殺菌作用のある軟膏、それから包帯を持ってきて!」
「分かった」
レオンが物資を取りに走ってくれている間、僕は子犬の体に他に傷がないか手早く探した。
他には、必死に逃げる時にできたのかもしれない、肉球の間の浅い切り傷。
そして耳の先が、野生の獣に噛みちぎられたのか、少しだけ欠けていた。
「これでよかったか?」
戻ってきたレオンの手元を見て、僕は頷く。
「うん! ありがとう」
血のりで固まった脇腹にそっと水をかける。
冷たい刺激と痛みで意識が戻ったのか、子犬が急に低く唸り声を上げ、暴れて僕の手を鋭い爪で引っ掻いた。
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