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第23話 怪我を負った犬 ④
「もう、そんなことしたら可哀想じゃないか」
フェンを急いで膝の上から持ち上げると、それを待っていたかのように、すかさずレオンが僕の膝の上にその重い頭を横たえた。
「フェンばかりじゃなくて、俺も構ってほしい」
特等席を奪い取ったレオンが、膝の上から僕を見上げてくる。長い睫毛の奥にある琥珀色の瞳が、今は信じられないほど甘えて潤んでいた。
「ふふふ……」
普段は決して見せないレオンのそんな子供じみた姿が、愛おしくてたまらない。
(今は馬車が止まっているし、少しだけなら、大丈夫かな……)
まだ深い眠りの中にいるフェンを、隣のウールケットの上に優しく寝かせ、僕はレオンの少し硬くて心地よい髪に、そっと指を通した。
「僕に構ってほしいの?」
「ああ」
「いつも、僕はレオンだけを見ているのに?」
「……っ! そうなのか!?」
レオンの端正な目が、これ以上ないほど大きく見開かれた。
ずっと前から、僕の視線なんてレオンは疾うに気づいていると思っていたのに、まさかこんな新鮮な反応をされるなんて。どうやら、本当に気づいていなかったらしい。
いつもは冷静で頼もしいレオンが、今はたまらなく愛らしく見える。
「そうだよ。レオンばかりが好きだと思わないでほしい」
口元を少し尖らせて、わざと拗ねたふりをして見せると、レオンは弾かれたように体を起こした。
そのまま僕の唇に、いたわるような口付けを一度だけ落とし、再び満足したように僕の膝の上へと頭を戻す。
「シリエルが俺のことを好いてくれているのは、分かっている。でも……時々、酷く不安になるんだ。俺のような無骨な男が、本当にシリエルの隣にいていいのか、必要とされているのかってな」
今度は、向けられていた視線をふいと逸らされた。
「そんなバカみたいなこと、本気で考えていたの?」
呆れ混じりにまた「ふふふ」と声を立てて笑うと、「また笑ったな」と、今度は少し強引な口付けで声を塞がれた。
「レオン。もしこれから先、またそんな風に心配になったら、その都度隠さずに僕に教えて。僕は何回だって、君の耳元で言ってあげるから。『僕がレオンの、たった一人の伴侶だ』ってね」
頑なに結ばれたままだったレオンの口角が、嘘のように優しく上がる。
「だから、レオンも僕に教えて。僕がレオンの、たった一人の伴侶だってことを」
触れていたレオンの豊かな髪を、もう一度指先で掬い上げる。
指の隙間から滑らかな毛並みが流れ落ちると、その愛おしい感触を繋ぎ止めるように、再び細い指を髪に絡ませた。
「レオンの唯一無二が僕だとしたら、僕の唯一無二も、レオンだよ。絶対に忘れないで」
今度は僕の方から、重い不安をすべて溶かしてあげるように、彼の唇へと深く、自らの熱を重ねにいった。
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