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第25話 怪我を負った犬 ⑥
一人で荷台に残されてみると、いつもどれほど無意識にレオンの気配を感じていたかを痛感させられる。
さっきまでは腕の中に、フェンの確かな暖かさもあった。けれど今は、完全な一人であることを否応なく実感させられる。
一分一秒が、気の遠くなるほど長い。
まだフェンの傷口は完全に塞がっていない。
今あんな風に全力で走れば、せっかく塞がりかけた傷口がまた開いてしまう。
もしその血の匂いを嗅ぎつけた獰猛な獣に見つかれば、今度こそ浅い傷では済まないだろう。
それにしても、フェンが急に飛び出した理由。
落ち着いて考えれば、思い浮かばないわけではなかった。
今までと変わったところ。
それは、一つ目の村が目と鼻の先まで近づいてきたこと。
鼻の利く犬のことだ。きっと、自分が元々暮らしていた村の匂いを、風の中に嗅ぎつけたのだろう。
(それなら良いのだけれど……)
深く、重いため息が漏れてしまう。
するとその時、前方からラルゴの『ブルル』という低い鼻息が聞こえた。
見ると、ラルゴは太い首を器用に捻り、後ろの荷台にいる僕の方へと顔を向けていた。
「ラルゴ、お前も心配してくれているの?」
じっとしていられず荷台から降りて、ラルゴの前へと歩み寄ると、彼は僕の顔に湿った温かい鼻先をそっと近づけてきた。クリクリとした大きな丸い瞳に、確かな心配の色が浮かんでいる。
「お前は本当に優しい子だね」
そう言って額を撫でてやると、ラルゴは横頬で何かを必死に訴えかけるように、僕の背中をぐいと押した。
「なに? どうしたの?」
驚いてもう一度頬を撫でてやるが、今度はさらに強く背中を押され、僕の足は思わず二歩前へと出た。
立ち止まろうとすると、また優しく背中を押される。
「歩けってこと?」
押されるがままに進んでいくと、ラルゴは先に見える村の方向を、自らの鼻先でしゃくるような素振りを見せた。
「村に行けってこと?」
『まさかな』と思いながらも、目を見つめて聞いてみると、ラルゴは応えるように短く鼻を鳴らす。
「心配なら、ここでじっとしていないで行きなさいって、そう言ってくれているんだね」
僕が呟くと、ラルゴの瞳がまるで肯定するように優しく輝いた。
「一緒に行ってくれる?」
その逞しい首筋を愛おしくさすると、ラルゴは頭を大きく上下させた。
それはまるで、僕の言葉を理解して深く頷いてくれたかのような錯覚を覚えるほどだった。
ラルゴの手綱を小さな手でしっかりと握り締め、僕らはゆっくりと、村の方へと続く静かな一本道を下っていった。
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