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第29話 新たな出会い ④

 レオンがネロを、ヘイワードさんがラルゴの手綱を引いて、僕たちは村の中心に向かっていく。  ちょうどお昼時だからだろう、通り沿いの家々からは、美味しそうな香りがふわりと漏れていた。  石でできている井戸のそばでは、子どもたちが声を上げて駆け回り、無邪気な笑い声が響いている。  時折、村人が乾かした蔓のようなもので作った空のカゴを抱えて、様々な家の中へと入っていった。  そして、空だったカゴに果物や野菜、紙に包まれた肉などを嬉しそうに持って出てくるのだ。 「あれは何をしているのですか?」   道案内をしてくれているヘイワードさんに尋ねると、 「買い物をしているのですよ」  と返ってきた。 「お店……なのですか?」  人々が出入りしている様々な家は、どこからどう見ても店ではなく、ただの家だ。そもそも看板すら掲げられておらず、何の店かもわからない。 「この村では、果物や野菜、肉やパンなどを作って街に売りに行っています。なので村人たちは普段、街に売る前の食材を、こうして各家に行き、村の中で買っているのです」  ヘイワードさんの視線の先には、買い物を済ませた母親と子どもの姿があった。  その穏やかな親子を見つめる彼の横顔には、どこか遠い哀愁と、それを包み込むような小さな誇らしさが浮かんでいる。 「だからこの村には、美味しそうな香りと子どもたちの楽しそうな声が溢れているのですね」 「ええ、ここはとても平和です」  見上げると、ヘイワードさんは優しく目を細めていた。  その時、僕たちの傍を、数人の子どもたちが勢いよく地面を蹴りながら走り通り過ぎていく。小さな石が地面と擦れる音と共に、乾いた土煙が立ち上り、そして消えていく。  一人の男の子が、後ろの子どもと話しながら、僕に向かって真っ直ぐ走ってきた。 「あっ!」  避けようと思ったけれど、間に合わない。  咄嗟にキュッと目を瞑ると、強い力で体を引き寄せられた。 「シリエルは周りを見てるようで、全く見てないな」  レオンの声がしたと同時に、僕の体がふわりと宙に浮いた。 「そこでじっとしてろ」  気がつけば、僕はネロの背の上に下ろされていた。  急に高くなった視界から、遮るもののない村の景色が広がる。確かに、ここからの方がよく見える。でも……。 「僕は歩きたい」  僕はレオンを見下ろしたくなんてない。  みんなと同じ視線、何より、レオンと同じ視線で、同じ地面を踏みしめながら景色を見たいんだ。  上からでもなく、下からでもなく、同じ視線の同じ世界を。 「そこからの方がよく見えるだろ?」 「そうだけど、やっぱり自分で歩きたい」 「わがままを言うな」  レオンはネロの手綱を引き、歩き出そうとする。  が、ネロの四肢は地面に根を張ったように動かない。 「ネロ……、シリエルを甘やかすな」  軽くネロの首をポンポンとレオンが叩くと、ネロは『ブルル』と鼻を鳴らし、抗議するように首を振った。 「まったくネロといい、シリエルといい……。わかったよ、ほら」  レオンが諦めたように、僕に大きな両手を差し出してくれる。僕が素直にその胸へと体を傾けると、レオンは僕の脇の下に両手を滑り込ませ、そのまま抱き下ろしてくれた。  ストン、と足の裏に、土と小石の確かな感覚が伝わってくる。  レオンと同じ、この不自由で確かな大地の上。 「ありがとう、レオン」  見上げると、頭を乱雑に撫でられた。

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