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第30話 新たな出会い ⑤
「さぁ、行きましょうか」
ヘイワードさんと歩き出そうとすると、今度は背後でレオンが立ち止まる。振り返ると、レオンの服の裾をカノンちゃんがぎゅっと引っ張っていた。
「どうした?」
「……」
カノンちゃんは下を向いたまま、何も答えない。
「お買い物したいの?」
こんなにいい香りがしているのだ。
何か美味しいものでも買って欲しいのかもしれない。けれど、カノンちゃんは小さく首を振る。
「あ! レオンに肩車して欲しいの?」
僕も昔、レオンの広い肩に憧れて、よく無理を言ってねだっていた。けれど、カノンちゃんはまた首を振る。
(困ったな〜、どうしたんだろう)
「カノン、歩きなさい」
ヘイワードさんがカノンちゃんの手を引いた、その時だった。
「私、お馬さんに、乗りたい」
小さな、けれど一生懸命な声が聞こえた。
きっとダメだと言われるのがわかっているけれど、勇気を振り絞って言ったんだ。
「レオン、ダメかな?」
子ども一人だけで馬に乗るのは、大人よりバランスがとりにくく、落馬の可能性が高くて危ない。
でも、できることなら乗せてあげたい。
「そうだな……」
多分、レオンも僕と同じ懸念を抱いているようだった。
少し考えてから、彼は琥珀色の瞳を僕へと向けた。
「シリエルと一緒に、ラルゴになら乗ってもいいぞ」
レオンの言葉に、カノンちゃんの顔が晴れやかになる。
でも、僕は今までレオンの後ろか前に乗せてもらうばかりで、誰かを乗せる側になったことなんて一度もない。
もしカノンちゃんと一緒に乗るとなったら、僕はいつもの『レオンの立ち位置』になって、彼女を守らなければいけないのだ。
「僕で、大丈夫……?」
バランスを崩して落馬でもさせて、大怪我をさせたら……と考えると、急に足がすくむ。
「シリエルなら大丈夫。きっとカノンちゃんを守れる」
また、乱雑に頭を撫でられる。
レオンは僕より馬について詳しい。
そのレオンが、僕を信じてそう言うんだ。きっと大丈夫。
「そうだね。カノンちゃん、僕と一緒に乗ってくれる?」
手を差し出すと、カノンちゃんの顔はさらに嬉しそうに綻び、何度も大きく頷いた。
レオンが先に僕を抱き上げラルゴに乗せてくれ、続いて、小さなカノンちゃんを僕の前に座らせた。
いつも、レオンが僕を包み込んでくれていたように、僕はカノンちゃんを包み込むように後ろから腕を回し、手綱を持つ。
レオンはネロを手綱をヘイワードさんに託し、自らはラルゴの手綱を持った。
「さぁ、行きましょう」
ヘイワードさんの声と共に、再び僕たちは歩き出す。
ラルゴの背の上から見る視界は、さっきよりもずっと広がっていた。
けれど、それ以上に僕の胸を満たしたのは、目の前で背後からでも喜びが全身から伝わってくる、はしゃぐカノンちゃんの愛おしい体温だった。
(レオンと一緒にネロに乗っていた時……レオンは、いつもこんな温かくて愛おしい気持ちで、僕の背中を見つめてくれていたのかな)
僕の知らなかったレオンに、ほんの少しだけ近づけた気がして、胸の奥がじんわりと嬉しかった。
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