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第33話 歓迎パーティー

 遅れてやってきたベイカーさんの奥さんも、旦那さんと同じ小人族の、とても可愛らしいおばあちゃんだった。ベイカーさんは僕の隣へやってくると、「かみさんとは昔馴染みでな、ワシの初恋の相手なんじゃ」と、悪戯っぽくこっそり教えてくれた。 「僕も、一緒です!」  あまりの親近感に、僕は思わず嬉しくなって声を上げてしまう。僕にとっての初恋の相手も、幼馴染であるレオンだからだ。 「だと思ったわい。お熱いことだねぇ」  ベイカーさんにニヤニヤと指をさされて笑われた。 「ち、違います! そういう意味じゃなくて……!」  確かに僕の初恋はレオン。でもレオンの初恋は僕は誰だか知らない。  大慌てで否定する僕の隣で、それまで黙っていたレオンが、分かりやすくガクリと肩を落とした。大きな体をわざとらしく小さくして、重苦しいため息を吐き出す。 「ずっと一緒にいたのに、俺はシリエルから初恋の相手の話なんて、一度も聞いたことがない。どうせ俺は、シリエルにそこまで信頼されていないんだ」  寂しげに視線を落とされ、挙げ句の果てにはグスン、なんて鼻をすする音まで聞こえてきた。 「ちがっ! 違うよ! 僕は世界で一番レオンを信用してるし、頼りにしてる! ね、だからそんな風に泣かないで!」  頭をだらりと下げてしまったレオンの顔を、下から覗き込みながら、僕は必死になって彼の広い背中を優しく擦った。  ヘイワードさんたちの前でレオンを傷つけてしまったという焦りで、心臓がバクバクと嫌な音を立てる。 「じゃあ……お前の初恋は、一体誰なんだよ……」  レオンの鼻声は、まだぐずぐずと湿った音を立てている。  どうしよう。  いつも冷静沈着で、戦場でも宮殿でも涙なんて一滴も流したところを見たことがないレオンなのに。  僕の、今の配慮のない失言のせいで泣かせてしまった。 「そんなの、レオンに決まってるじゃん……!」 「……」   僕が意を決して口にすると、レオンからのリアクションがピタリと途絶えた。 「ごめんね、レオン」  うなだれたままのレオンの首に、僕は自ら細い腕を回し、その大きな体をぎゅっと抱きしめる。 「僕の初恋は、レオンだよ」  いつもレオンが僕にそうしてくれているように、あやすようにその短い黒髪を優しく撫でた、その時だった。 「よかった」  ふっと耳元で、ひどく低く、愉しげな声が響いた。  驚いて顔を上げたレオンは、涙の跡などどこにもない、満面の笑みで僕を見つめていた。  確かに鼻がぐずぐずいっていたから、てっきり本当に泣いているのだとばかり思っていたのに、今の彼の表情は驚くほど晴れ晴れとしている。 「俺の初恋は、シリエルだ」  あっけにとられる僕の視界に、レオンの整った顔が急接近した。  チュッと唇の感触が、僕の額に落とされる。 「え!? ええ!? ええ〜っ!?」 (レオンの初恋の相手が、僕……っ!?)  嬉しいという感情よりも、あまりの衝撃と驚きに脳が追いつかず、情けないほど声が裏返ってしまった。 「本、本気にしてしまうから、そんな変な冗談言わないでよ!」 「本当だ。俺の初恋はシリエルだよ」  そう言いながら、レオンの口元は少しニヤついている。やっぱり、僕が真っ赤になって慌てる姿を見て面白がっているだけなのだ。 「もう、冗談は言わないでってば」  僕が頬を尖らせて抗議すると、 「本当だ」  とだけ、今度は一切の笑みを消した、短く重い声で返された。  その琥珀色の瞳の奥にギラリとした暗い熱が灯ったような気がして、僕は気圧されて言葉を失う。 「さ、素敵なカップルも登場したことですし、みんなでお祝いしましょう」  ベイカーさんの奥さんの声で、みんなでテーブルを囲む。そして、わいわい言いながら協力してサンドイッチを作った。

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