35 / 42
第35話 歓迎パーティー ③
昼下がりの穏やかな光が差し込む、ヘイワードさんの家の玄関先。
美味しい昼食をごちそうになり、フェンも元気な姿で無事に家族の元へ返してあげることができた。
僕とレオンは、ヘイワードさんとカノンちゃんに見送られながら、外に停めてある馬車の前へと並ぶ。
「それじゃあ、僕たちはこれで失礼します」
温かく迎えてくれたお礼を言い、また旅に出ようと、愛馬のラルゴが引く馬車に乗り込もうとした、その時だった。
「ん?」
不意に、上着のすそをぐっと引っ張られた。驚いて振り返ると、カノンちゃんが小さな手で、僕の服を一生懸命に掴んでいた。
「カノンちゃん、どうしたの?」
同じ目線になるように、その場にしゃがみ込んで声をかける。けれど、下を向いているカノンちゃんの顔は髪に隠れてしまって、どうしても目が合わない。
「行っちゃ……イヤ……」
消え入りそうなカノンちゃんの声が、僕の耳に届く。
「もう少し……ここに、いて」
まだ下を向いたままで、彼女の表情は分からない。けれど、僕の服を握りしめる小さな手に、じわりと強い力が入ったのは分かった。
「これ、カノン。わがままを言ってはいけないよ」
背後から、ヘイワードさんが前屈みになってカノンちゃんの顔を覗き込んだ。カノンちゃんは父親とさえも目を合わせたくないかのように、ぷいっと顔を背けてしまう。
「カノン」
ヘイワードさんの少し厳しい声色が、静かな空気の中に響く。
言いつけを破ってしまったと思ったのだろう、カノンちゃんの小さな肩がビクッと上下に揺れた。
カノンちゃんの小さな背中を見つめながら、僕の胸の奥が痛んだ。
僕はこの村の人たちが大好きだ。だから本当は、ずっとここにいたい。
けれど、今の僕には、まだ一人で立って生きていける力も技術もないのだ。そんな何もない僕がここに残ったところで、一体何の役に立てるというのだろう。
僕がもう少し、自分の足で立てる自立した人間だったなら、この村で何か役に立つ仕事を見つけられたのだろうか。
きっといつか、僕が一人前の人間になることができたら、その時は胸を張ってこの村に帰ってきて、今度こそここで暮らさせてほしいと言いたい。
だから、今は……。
「カノンちゃん」
僕は、自分の服を掴んでいるカノンちゃんの両手を、僕の両手でそっと包み込んだ。
「僕がもっと立派になって、カノンちゃんをちゃんと守れる人になったら、またこの村に帰って来させてね」
「……」
カノンちゃんは無言のまま、ぎゅっと唇を噛みしめている。
けれど、彼女の足元の地面には、ぽつり、ぽつりと、大粒の涙の跡が二つ、三つと増えていった。
ともだちにシェアしよう!

