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第38話 歓迎パーティー ⑤
「頼まれていた食材を持ってきました」
「ありがとうございます、助かります」
レオンがカゴを受け取ると、ヘイワードさんとカノンちゃんが興味津々といった様子でスープの鍋を覗き込んだ。
「わぁ……いい匂い」
カノンちゃんの声が、嬉しそうに一段高くなる。
「味見してみるかい?」
レオンがかまどの大鍋から手際よくスープを小皿に分けると、それをヘイワードさんに手渡した。
「熱いので、少し冷ましてあげてください」
レオンが僕にしてくれたのと同じように、ヘイワードさんが丁寧にスープに息を吹きかけ、熱をとってからカノンちゃんに手渡す。
カノンちゃんはきらきらと瞳を輝かせながら、ふうふうとスープを口に運んだ。
味について尋ねる必要なんて、どこにもなかった。カノンちゃんの白い頬がパッと赤く染まり、くりくりとした大きな目がさらに丸く見開かれる。
「おいし〜いっ!」
カノンちゃんは空になった小皿を愛おしそうに見つめながら、もう片方の手で幸せそうに頬を押さえている。
ふと窓の外に目をやると、集まってきた村の男の子が、羨ましそうに生唾を飲み込むのが見えた。
きっとみんな、レオンの作ったこの温かいスープが飲みたいのだ。
「ねぇ、レオン。外のみんなにも、少しずつ飲んでもらうことはできるかな?」
「そうだな……」
レオンは大きな鍋の残量を確認し、それから僕を見て優しく微笑んだ。
「シリエルが手伝ってくれたら、できるかもしれない」
レオンは調理台の上にある、追加の野菜たちを指差す。
「今から俺が急いで追加の野菜を切る。その間、シリエルはスープの鍋と……それから、隣の鍋を見ていてくれ。果実酒と一緒に煮込んでいるお肉が焦げ付かないように、ゆっくりかき混ぜてほしいんだ」
そう言って、レオンから大きな木べらを手渡された。
僕にとっては、これが生まれて初めて体験する『料理』だ。
「うまく、できるかな……」
せっかくレオンがここまで美味しく作ってきた料理を、僕の手で台無しにしてしまったらどうしようと、急に不安が押し寄せてくる。
「初めからうまくできる人なんていない。何かあっても俺が全部なんとかするから、シリエルはただ『美味しくなれ』と思いながら混ぜればいい」
大きな手で、髪をぐしゃぐしゃと優しく撫でられる。レオンの手のひらから、『お前なら大丈夫だ』という絶対的な信頼の熱が伝わってきた。
「うん、やってみる!」
レオンが信じてくれている。その事実だけで、体中に元気が湧いてきた。
手渡された木べらをしっかりと握り、お肉の入った隣の大きな鍋をゆっくりとかき混ぜる。
その瞬間、ふわりと鼻腔をくすぐった香りに、僕はハッと息を呑んだ。
この、甘酸っぱくてどこか芳醇な懐かしい香りは……。
「レオン、これ……っ。僕の、十二歳の誕生日に作ってくれた……!」
木べらを動かす手を止め、驚いてレオンを振り返ると、彼は嬉しそうに大きく頷いてみせた。
「正解だ。牛肉の果実酒煮。俺の母親直伝のレシピだ。野菜たっぷりのトマトスープはマルコ直伝。この二つが、俺の自信作だ。それに、今日はこれだけじゃない。食後にはデザートもあるぞ」
「デザート!?」
嬉しさのあまり、思わずその場でぴょんと飛び上がってしまった。
王家に嫁いでからは、一度だって口にすることができなかった贅沢品。甘くて幸せなお菓子なんて、僕にとっては幼い頃の、はるか遠い記憶の中にしかないものだった。
あの冷たい宮殿では、どれほど虐げられていても、生き延びるための最低限の栄養だけは与えられていた。
けれどそれは、ただ僕という存在を生かすためだけの、機械的な作業にすぎなかった。
温かいか、美味しいか、次の食事を楽しみにできるかどうかなんて、誰も気にかけてはくれなかったのだ。
けれど、今日はレオンの手料理があって、その上デザートまである。胸の鼓動が、トクトクと嬉しそうに跳ね上がっていく。
「ヘイワードさんのお宅で採れた、出来立ての濃厚なチーズを使ったチーズケーキだ。これも、外にいる村のみんなの分までたっぷり焼き上げるからな。さあ、忙しくなるぞ」
レオンはそう言って楽しそうにシャツの袖をまくり、再び調理台へと向かった。
目の前にある、大きくて、逞しくて、世界中で一番頼もしいレオンの背中。
見つめているだけで、胸の奥が甘く、ぎゅうぎゅうと締め付けられるように愛おしさが昂っていく。
(もし……もしもいつか、本当にレオンの番になれたなら。毎日、この愛しい背中を特等席で見つめていられるのかな)
そう思った瞬間、もう自分の溢れる気持ちを抑えきれなくなって、僕は持っていた木べらを一度置いて、レオンの広い背中へと勢いよく飛びついていた。
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