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第39話 歓迎パーティー ⑥
空がゆっくりと茜色から紫色の夜へと移り変わる、夕日が傾きかけた頃。
ヘイワードさんの家の前にある小さな広場に、いくつもの木製の机が運び込まれていった。
テーブルの周囲に設置された三脚の鉄かごのなかで、赤々と薪が燃え上がり、温かいオレンジ色の光が辺りを優しく照らし出す。
広場の中央にある大きな机の上には、村人たちが持ち寄った果実水や果実酒、なみなみと注がれた麦の発泡酒が並べられていく。
各家庭から持ち寄られた出来立ての料理からは、ほかほかと美味しそうな湯気が立ち上っていた。
そして一番目立つ特等席に、レオンがお手製で作り上げた色鮮やかな料理たちが並べられる。
村の人たちが全員集まったのを見計らい、村長でもあるヘイワードさんがにこやかに前へと進み出た。
「みんな、よく集まってくれた! 今夜の宴を始める前に、まずは森で怪我をしていたフェンを助けてくれた、シリエルさんとレオンさんご夫婦をみんなに紹介したいと思う。さぁ、二人ともこちらへ」
手招きをされて、僕はレオンと肩を並べて一歩前に進み出た。
その瞬間、一斉に何十人もの村人たちの視線が、僕たちに向かって突き刺さる。ざわざわと、辺りで何かを囁き合う声が広がっていった。
どくん、と胸が大きく跳ね上がり、喉の奥が引きつるように息が詰まった。
目の前のかがり火がぐにゃりと歪み、今の現実と、決して思い出したくない過去の世界が頭の中で激しく混ざり合っていく。
あの広くて冷たい王宮で、僕を蔑んだたくさんの冷酷な目。僕を不要品として追い出した奴らの、悪意に満ちた批判の囁き声。それらが今、目の前の光景と完全に重なってしまった。
「はっ……、ふ、……ぅ……」
浅い呼吸がハァハァと細かく続き、息を吸うことすら忘れてしまったかのように苦しい。
でも、こんな醜い姿を誰にも見せるわけにはいかない。
僕は自分の胸元の服を破れそうなほどきつく握りしめ、パニックを必死に隠そうと下を向いた。
その時、ぐっと僕の肩が強く引き寄せられた。
驚いて見上げると、まっすぐ前を見据えたレオンが、その大きな腕で僕の体を自分のほうへとしっかりと抱きすくめてくれていた。
レオンの体温と、あのほろ苦いタバコの香りが僕の鼻腔を満たし、冷え切っていた頭がすうっと正気を取り戻していく。
「ご紹介に預かりました、私はレオン・レスターと、隣にいるのが私の伴侶、シリエル・レスターです」
僕を庇うように響いたレオンの声に、僕は息を呑んで目を見開いた。
身分を隠して平民として生きるための偽名だと分かってはいるけれど、レオンが僕を自分の家族と同じ名前で呼んでくれたという事実が、信じられないほど愛おしくて、嬉しくて。
見上げると、いつの間にか僕を見おろしていたレオンの、優しく揺れる琥珀色の瞳と視線がぶつかった。
レオンは僕を安心させるようにふっと微笑むと、再び村人たちのほうを向き、僕の肩をさらにもう一段強く引き寄せる。
「私たちは夫婦は今、二人で旅をしております。ヘイワードさんのご厚意で、このあたたかくて素敵なこの村にしばらくお邪魔させていただくことになりました。よそ者ではありますが、皆さんと仲良くしていきたいと思っています。どうぞ、よろしくお願いいたします」
レオンが丁寧にいっとき頭を下げると、張り詰めていた静寂を破るように、辺りからわっと大きな拍手が沸き起こった。
「さあ、シリエル」
レオンが僕の耳元で、優しく自己紹介を促すように囁いた。
みんなの拍手の音が、僕の背中を優しく押してくれるような気がした。
僕はぎゅっと拳を握り、覚悟を決めて一歩前に出ると、集まった村のみんなの前で声を響かせる。
「初めまして! シリエル・レスターと言います。短い間ですが、よろしくお願いします!」
勢いよく頭を下げると、さっきよりもずっと大きな、地響きのような拍手と歓声が僕を包み込んだ。
顔が火を噴きそうなほど熱い。
激しくトクトクと脈打つ胸の高鳴りが、みんなの拍手の音よりも大きく響いてしまっているのではないかと、僕は恥ずかしさで胸をいっぱいにしながら、隣にいるレオンの服のすそをそっと掴み直した。
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