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第43話 出逢い ③
「あ……」
その本は、かつて僕が幼い頃、レオンのお母さんに何度も何度も読み聞かせてもらったのと同じ本だったのだ。
(確かこの本は、この国の言葉ではなく、帝国の古い言葉で書かれていて……)
そっとページをめくる。古い本特有の、どこか懐かしい香りと、優しく黄ばんだ紙の質感が指先に伝わってきた。
けれど、ページはどこも破れておらず、とても大切に扱われてきたことがよく分かる。
きっとこの本は、カノンちゃんが手にするよりもずっと前から、誰かの特別な『宝物』だったのだろう。
「この本ね、お父さんとお母さんを出会わせてくれた、とっても大切な宝物なんだってお父さんが言ってたの」
無意識に本を愛おしそうに見つめていた僕に、カノンちゃんがトコトコと隣に並んで教えてくれた。
カノンちゃんの話によると、亡くなったお母さんは、昔、街の大きなお本屋さんで働いていたのだという。
そこにたまたまやってきたヘイワードさんが、お母さんに一目惚れをしてしまった。
どうにかしてお母さんとお話しするきっかけが欲しくて、ヘイワードさんはわざと自分では読めないような、難しい帝国の言葉で書かれたこの本を選び、「読み方を教えてほしい」と頼み込んで仲良くなったらしい。
それを聞いて、胸の奥がキュッと甘く締め付けられた。
僕とレオンの出会いも、そして心の距離が縮まったのも、まさにこの本がきっかけだったからだ。
王宮への輿入れに向けた、終わりのない厳しい勉強とマナーの教育に明け暮れていた幼少期。
僕の周りには友達なんて一人もいなくて、いつも孤独だった。
そんな僕の冷え切った部屋にやってきて、たくさんの広い世界を本を通じて教えてくれたのが、レオンの優しいお母さんだったのだ。
僕はレオンのお母さんと過ごす、そのあたたかい時間が何よりも大好きだった。
彼女が使用人のお仕事で忙しい時は、代わりに年上のレオンが、僕の隣に座って不器用ながらも一生懸命に本を読んでくれた。
そして、僕とレオンが特に気に入って、毎日のように一緒に開いていたのが、まさに今僕の膝の上にあるこの物語だった。
「この本ね、お父さんが何回も読んで聞かせてくれたんだけど、私一人じゃまだ難しくて読めないの。だから、街から来た物知りのシリエルさんなら、この不思議な言葉も知っているかなって思って……」
カノンちゃんが恥ずかしそうに指をもじもじと動かす。
昔、僕もカノンちゃんと同じことを思って、レオンの袖を引っ張っては「帝国の言葉を教えて」とねだったものだ。
レオンと一緒に本を読む時間そのものが好きだったというのもあるけれど、一人きりで寂しくてたまらない夜、この本を開いて帝国の言葉をなぞっていると、レオンやレオンのお母さんの温もりを思い出して、少しも寂しくなくなったから。
「いいよ。一緒にたくさんお勉強しようね」
僕はそう言って、近くにあった大きな木の根元に腰を下ろした。
カノンちゃんが嬉しそうに僕のすぐ隣にちょこんと座ると、それを見たフェンが、満足そうにカノンちゃんの膝の上へとぴょんと飛び乗った。
「じゃあ、読むね」
本のページを優しく押さえながら、帝国の言葉を紡ぎ、それをこの国の言葉へと交互に訳しながら、ゆっくりと声に出していく。
カノンちゃんが、みるみるうちに本の中の美しい物語の世界へと吸い込まれていくのが分かった。
ヘイワードさんがいつも、カノンちゃんのために一生懸命この国の言葉に言い換えて読んであげていたのだろう。
物語に夢中になってきらきらと瞳を輝かせているカノンちゃんの横顔を見つめながら、僕は、かつてレオンの隣で同じように目を輝かせていた、幼い頃の自分の姿をそっと重ね合わせていた。
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