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第47話 出逢い ⑥

「いいよー!」  さっきまで『同じ本は嫌だ』と騒いでいたはずの子供たちが、レオンの提案に一転して乗り気な顔で読み始めるのを静かに待ち始める。  子供たちの視線がしっかりと本に集まったのを確認すると、レオンは穏やかで低い声を響かせ、物語を読み始めた。  耳元を優しくくすぐるような、少し掠れたレオンの声。  強弱のついた、まるですぐそこに登場人物がいるかのような抑揚のある読み方は、昔のまま。  子供たちはたちまち、レオンの紡ぐ本の中の世界へと熱心に引き込まれていく。 (懐かしいな)  昔、誰もいない冷たい部屋で、僕もこうしてレオンの袖を引いては、色々な本を読んでもらった記憶が鮮明によみがえってくる。 (あの頃は……レオンの大きな膝の上が、僕だけの、世界で一番大好きな特等席だったのにな)  みんなの前で堂々とレオンの膝の上に座り、誇らしげにしている男の子の姿を見て、胸の奥がチリリと痛んだ。  ほんの少しだけ、その席が羨ましいと思ってしまったのだ。  やがてキリのいいページまで読み終えたレオンは、そっと本を僕の手元へと手渡した。 「続きは、シリエルに読んでもらいたいんだが……みんなはどう思う?」 「え……?」  僕は思わず声を漏らした。  せっかく子供たちはレオンの読み聞かせに夢中になって、物語を楽しんでいる。  きっと子供たちだって、僕なんかより、格好よくてお話の上手なレオンに読んでもらう方がいいに決まっている。  なのに、どうして急に僕に交代するのだろう。 「うん! シリエル、続き読んで!」 「続きが気になる! 読んで、読んで!」  驚く僕の心配をよそに、子供たちから次々と小さな手が伸びてせがまれる。 「本当に、僕でいいの……?」 「うん!」 レオンの膝の上に座っていた男の子も、嬉しそうに何度も大きく頷いてくれた。 「じゃあ……」  僕が諦めて本を受け取ると、レオンは自分の膝に乗せていた男の子を優しく地面へと下ろした。  そして次の瞬間。 「わっ!?」  僕の細い腰にレオンの両手が回ったかと思うと、体がふわりと宙に浮いた。  レオンは驚く僕の体を軽々と持ち上げ、そのまま、自分の空いた膝の上へとすとんと下ろしたのだ。 「俺も、特等席の一番近くで聞きたい」  ゾクリとするほど艶めいた低い声が、僕のすぐ耳元で優しく囁やかれた。  背筋を冷たい刺激が駆け抜け、あまりの恥ずかしさと緊張で、全身の力が一気に抜けてしまいそうになる。  心臓が壊れそうなほど脈打つなか、ゆっくりと振り返ってレオンを見上げると、そこには僕のすべてを見透かしたような、悪魔のように美しい琥珀色の瞳があった。 「ここは、昔からシリエルの特等席だったろ?」  子供たちには聞こえないほどの小さな声で、また耳たぶを濡らすように囁かれる。  レオンの大きな体温に包まれ、心も体もすべて彼にガチリと掴まれてしまったかのように、指一本動かすことができない。 「レオン……っ」  このまま、彼の持つ甘い熱の中に跡形もなく飲み込まれてしまいそうになった、その時だった。 「ねぇ、シリエル! 早く読んで!」  目の前にいた男の子の元気な声に弾かれ、僕はハッと我に返った。 「ご、ごめんなさい! 今読むね!」  僕は顔が火を噴きそうなほど赤くなっているのを感じながら、慌てて続きのページをめくった。  すぐ耳の後ろから、僕の動揺を楽しんでいるレオンの「あはは」という意地悪で低い笑い声が、優しく響いていた。

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