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第48話 出逢い ⑦

 そして、その日の夜。  子供たちを見送り、村の皆さんとの賑やかな夕食を済ませたあと。  一日の汚れを綺麗に洗い流す湯浴みを終えた僕は、レオンが待つヘイワードさんの屋根裏の寝室へと戻ってきた。  薄暗い部屋にはもうレオンがいて、ベッドの縁に腰掛けながら、カノンちゃんの宝物である例の分厚い本を静かにめくっていた。 「その本、カノンちゃんに貸してもらったの?」  僕はまだ少し濡れている銀色の髪を、手に持ったタオルで優しく拭きながら、レオンの隣へと腰を下ろした。  するとレオンは本をベッドの脇にある小さな机の上へと置き、僕の方を向いて「おいで」と大きな手を伸ばしてくる。 「ありが、とう……」 「ん」  僕が素直に手渡したタオルを受け取ると、レオンは僕の体を後ろから包み込むようにして、自分の目の前に座らせた。  そうして、僕の長い髪を大きな手で一枚ずつ救い上げるようにして、丁寧に優しく拭き取り始める。  ヘイワードさんの家にお邪魔するようになってからというもの、毎晩の湯浴みのあとは、こうして必ずレオンが僕の髪を乾かし、(くし)綺麗に整えてくれるのが日課になっていた。   おかげで僕の髪は、あの冷たい王宮にいた時よりもずっと艶があり、指通りもさらさらとしている。 「昼間は……子供たちの仲を取り持ってくれて、ありがとう」  もう今日だけで何回目になるか分からないお礼だったけれど、二人きりの空間に流れる沈黙がどうしても照れ臭くて、僕はつい言葉を紡いでしまった。 「いいって。……ああ、そうだ。あのあと、俺が村の人に何て言われたか知っているか?」  レオンには珍しく、何か微笑ましいことでも思い出したかのように、ふふっと相好を崩している。  いつもは男らしくて頼もしいレオンが、そんな風に少し子供っぽく笑う姿を見て、僕は不覚にも可愛いと思ってしまった。 「ううん、何を言われたの?」  愛らしいレオンの表情に釣られるように、僕の胸の奥にもじんわりと温かい幸福感が広がっていく。 「『本当に、素敵なご夫婦ですね』だってさ。俺たち、この村では理想の夫婦だとも言われた」  上機嫌に目を細めたレオンは、僕の濡れた髪の隙間から、ぽてりとした唇を僕の頬へと優しく押し当てた。 「そう言われて、俺はものすごく嬉しかった。……シリエルは、どう思った?」 (そんなの、わざわざ訊かなくても分かりきっているのに……) 「訊かなくても、本当は分かっているくせに」 「分かっている。でも、シリエルの可愛い口から直接聞きたいんだ。シリエルがどう思っているのか……『嬉しい』って舞い上がっているのが、俺だけじゃないかって、少しだけ不安になるからね」  悪戯っぽく笑うレオンの顔が、僕の視界を優しく満たす。  レオンは、この王宮を離れる旅に出てから、本当によく声を出して笑うようになった。  王宮にいた頃のレオンは、いつだって僕の側で静かに微笑むだけだった。  声を上げて笑ったり、大きな口を開けて感情を剥き出しにすることなんて、一度だってなかった。  楽しそうに笑うレオンの姿を見ていると、このあてのない逃避行は、僕だけじゃなくてレオンにとっても本当に良いことだったのかもしれないと、心の底から思えてくる。

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