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第49話 出逢い ⑧
「ずるいよ……」
「ずるくていいさ。ほら、俺のために言って?」
さっきまで柔らかく笑っていたレオンの瞳が、急に熱を孕んだ真剣な眼差しへと変わった。
どくん、と心臓がひときわ大きく跳ね上がる。
どんなレオンも大好きだけれど、この深く射抜くような美しい瞳に見つめられてしまったら、どんな状況であっても、僕はもう彼に嘘をつくことなんてできなくなってしまう。
「僕も、嬉しい。きっと、レオンが思っている以上に……ずっと嬉しい」
きっとじゃない。絶対に、僕のほうこそ頭がおかしくなりそうなほど嬉しい。
村の人たちの勘違いが、いつか本当に、現実になればいいのにと……そんな大それたことを願ってしまうくらいには。
「そう言ってもらえて、俺はもっと嬉しい」
レオンは満足そうに喉を鳴らすと、僕の細い体を軽々と持ち上げ、今度は自分と対面になるようにして、その逞しい膝の上へと完全に座らせた。
あんなに恥ずかしい告白をしたすぐあと。
まっすぐにレオンの顔なんて見られるわけがない。
真っ赤になって火を噴きそうな自分の顔を見られたくなくて、僕は逃げるようにして、レオンの広くて逞しい胸板へと顔をぎゅっと埋めた。
こんな風に、まっすぐにレオンが僕に気持ちをぶつけてくれる日が来るなんて、王宮にいた頃は夢にも思っていなかった。
嬉しくて、恥ずかしくて、胸の奥が甘酸っぱくむずむずする。
「レオンの……意地悪」
顔を埋めたままこもった声で文句を言うと、レオンは愛おしそうに僕の顎を指先で掬い上げ、無理やり顔を覗き込んできた。
「ごめんって」
そう言いながら、またちゅっと音を立てて、僕の濡れた頬に口づけを落とす。
「も〜っ!」
そんなことをされたら、僕の顔がもっと赤くなってしまうことなんて、レオンは全部知っていてわざとやっているのだ。
「あ、そうだ。シリエル。明日、ヘイワードさんから、自家製のチーズとハムを街の市場まで持って行ってほしいって頼まれたんだ」
「ヘイワードさんに?」
仕事の話になり、僕は慌てて顔を上げた。
いつもならヘイワードさんは、自分の足で街の納品先まで荷物を運んでいるはず。
なのに、どうして僕たちにそんな大切な仕事を頼むのだろう。
「今日、夕方に子羊を追いかけているときに、少し足を挫 いてしまったみたいなんだ」
「え!? ヘイワードさん、大丈夫なの?」
「ああ、大した怪我じゃないから心配ないさ。でも、数日は無理をせず安静が必要だからね。だから、代わりに俺たちで納品のお手伝いをしてこようかと思って」
「それはもちろん、喜んでお手伝いさせてもらわなきゃ。……あ、それなら、カノンちゃんも前から『街に行ってみたい』って言っていたから、明日は一緒に連れて行ってあげようか!」
一緒に街に行けると知ったら、カノンちゃんはきっと飛び跳ねて喜ぶはずだ。
そんな彼女の晴れやかな笑顔が頭に浮かんで、僕までワクワクしてくる。
なのに、レオンは僕の胸に顔を埋めるようにして、「……嫌だ」と低く呟いた。
「え?」
「俺は、シリエルと二人きりがいい。明日はシリエルと二人だけで、遠出がしたいんだ。……誰の目も気にしないで、まるで、本当の恋人同士みたいにさ。……だめ、か?」
レオンは僕の腰をきゅっと抱きしめ直しながら、下からすがるような、まるで捨てられた子犬のような濡れた瞳で僕を見上げてくる。
もう、そんな顔をされたら……ずるい。
レオンに、そんな可愛いおねだりをされてしまったら……。
「いい、よ。二人で行こう」
僕はレオンのあまりの愛らしさに完全に降伏し、心の中でカノンちゃんに『ごめんね』と小さく言い訳をしながら、レオンの首筋にそっと細い腕を絡ませた。
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