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第52話 出逢い 10

「俺はシリエルをたくさん甘やかしたいんだよ。シリエルに『ありがとう』って笑ってもらいたいんだ。だから、俺のささやかな楽しみを奪うようなことはしないでくれ」 「でも……」 「『でも』じゃない。こういう時は、なんて言うんだっけ?」 「たくさん買ってくれて……ありがとう」  胸の奥にある申し訳なさが拭いきれず、どうしても小さな声になってしまう。 「よし。あともう一つ、お礼があるだろう?」  そう言いながら、レオンは僕の目の前で腰を屈め、自分の頬を突き出してきた。  突然のことに、レオンが何を求めているのか一瞬まったく分からなくなる。 「え? なに……?」  僕が訊き返すと、レオンは突き出した自分の頬を人差し指でぽんぽんと叩いた。 「頬にお礼の口づけは?」 「え〜っ!?」  あまりの突飛な要求に、今度は通りに響くほどの大きな声が出てしまった。  また慌てて周囲をキョロキョロと見渡したけれど、幸いなことに、今度は誰もこちらを見ていない。  ホッと胸を撫で下ろしていると、 「してくれないのか」  レオンがひどく悲しそうに、大きな肩をがっくりと項垂(うなだ)れさせた。いつもは頼もしい彼の体が、心なしか小さく見えてしまう。 「誰も、しないなんて言ってないよ……」 「じゃあ、してくれるっていうことか?」  さっきまで消え入りそうだったレオンの顔が、一瞬にしてパッと明るくなる。  コロコロと変わるレオンの百面相は、悔しいけれど、本当に愛らしいと思ってしまう。 「もう、仕方ないな……」  僕はもう一度辺りを見回し、誰も見ていないことをしっかりと確認してから、背伸びをしてレオンの頬へそっと唇を寄せた。ちゅ、と小さな音が響く。 「これで満足……?」  恥ずかしさを隠すために少し茶化すように言うと、レオンは満面の笑みを浮かべ、 「お礼のお礼」  と言って、今度は僕の頬へと不意打ちで口づけを返してきた。 「なっ……!?」  驚いて文句を言おうとした、まさにその時だった。 「本当に仲が良いんだねぇ」  すぐ後ろから、穏やかでからかうような女性の声が響いた。  慌てて振り返ると、そこには五十歳くらいに見える物腰の柔らかい女性が、通りの脇に露店を構えていた。  木箱の上には、細かな装飾が施された美しい装身具がいくつも並べられている。 「夫婦で……」  その露天商の女性が何かを言いかける前に、レオンがすかさず「夫婦でデートなんです」と、誇らしげに答えてしまった。 「まあまあ、私が今までここで出会ったどんなご夫婦よりも、一番仲が良さそうに見えるよ」 「はい。俺たち、すごく仲が良いんです」  レオンはすっかり上機嫌になって、僕の肩を自分の体へと引き寄せる。 「ちょっと、レオン……っ」  さすがに人前でここまで堂々と惚気(のろけ)られるのは、恥ずかしさで心臓が保たない。 「あはは! お兄さん、本当に面白いねぇ。よし、気に入った! 特別にこれをやろう」

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