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第59話 出逢い 17
「あのっ!」
身体の奥から振り絞ったはずなのに、出たのは情けないほど小さく震えた声だった。
けれど、僕も例外ではなく怖かった。これ以上この二人を対峙させていたら、この場にいる全員が恐怖で凍りついて動けなくなってしまう。
「僕は……ここで、マーサさんの力に……なりたいです」
喉の奥がカラカラに乾き、言葉がうまく紡げない。
「じゃあ! 俺と一緒に?」
さっきまでレオンに向けられていたエリアスさんの殺気が一瞬で瓦解し、パッと喜びに顔を輝かせた。
「違います……っ」
僕が否定した瞬間、周囲の空気の温度がさらに数度下がったような気がした。
「僕は、ここに残ります。でも……レオンと一緒に、です」
レオンと一緒に。
それが、僕にとって何よりも一番大切なことだった。
もしもレオンと一緒でないのなら、ここに留まる意味なんてどこにもない。
エリアスさんの握り拳が、みしりと音を立てそうなほど強く握り込まれた。
「レオンさんと一緒……か。二人の間に、俺が入る場所はないのか?」
瞳の奥を覗き込まれ、背筋にゾクリと嫌な汗が伝う。
胸の奥が掻き乱されるような恐怖に堪えきれず、僕は逃げるようにレオンの服の裾を強く掴んだ。
僕の焦りに気づいたレオンが、すっと自分の身体で僕を隠すように前へと立ち塞がってくれた。
「それくらいにしておけ」
低く重いレオンの声が響く。
けれど、今のレオンから周りを威圧するような不快なフェロモンは出ていない。
「シリエルが怯えている」
レオンの背後に隠れる僕の姿を、エリアスさんは探るような視線で見つめてくる。
エリアスさんに見つめられていると、自分の中の何かが暴れ出しそうな、すべてを見透かされているような恐怖があった。
僕はたまらず、さらにレオンの背中へと深く身を隠した。
「マーサさん」
レオンはエリアスから視線を切ると、座っているマーサさんへと穏やかに話しかけた。
「俺たちは、マーサさんとこのお店の警護を引き受けます。ただし、一つだけ条件があります」
「条件……ですか?」
不安そうに眉間にシワを寄せながら、マーサさんが首を傾げた。
「俺が『シリエルが無理をしている』と感じるまで、です」
「……!」
「シリエルは人のためなら、平気で無理や無茶をする性格です。自分を後回しにして犠牲にしようとすることもあります」
「……」
「俺もマーサさんの力になりたいと思っています。ですが、俺がこの世で一番守りたいのはシリエルです。だから、彼に負担がかかるような状況になったら、即座に手を引かせていただきます。……それでよろしいですか?」
本当のレオンは、困っている人がいれば真っ先に手を差し伸べる優しい人だ。
けれど今、レオンは僕のために、あえて冷徹な「悪役」を買って出てくれている。
僕が遠慮して口にできない本音を代わりに突きつけ、僕に逃げ道を作って守ってくれようとしているのだ。
僕のために、たくさんの重荷を背負ってくれているレオンの広い背中を、僕は後ろから愛おしく見上げた。
「ええ。もちろんです」
マーサさんは包み込むような優しい眼差しで、深く頷いてくれた。
「レオンさんのお気持ち、痛いほどよく分かりますよ。そう言っていただけた方が、私も安心してお願いできます」
「そう言っていただけて、俺も嬉しいです」
レオンの張り詰めていた気配が、ふわりと穏やかなものへと変わった。
「どうぞ、よろしくお願いしますね」
マーサさんから差し出された手を、レオンがしっかりと握り返す。
そして僕も続いて、マーサさんのあたたかな手を両手でぎゅっと握り締めた。
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