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第60話 新しい生活 ①

「このご本、あげるんじゃないの。貸してあげるんだからね」  そう言いながらカノンちゃんは、自分が大切にしていた本を僕に手渡してくれた。 「だから、お休みの日には、絶対、絶対に帰ってきてね」  カノンちゃんの大きな瞳に涙が溢れ出し、僕もつられて視界が歪んでしまう。 「うん。絶対に帰ってくるよ」  力強くそう答えると、僕は小さなカノンちゃんをぎゅっと抱きしめた。  今、僕には『帰ってきてね』と言ってくれる人がいる。『帰ってくるよ』と言える場所がある。 (これって……僕のことを、必要としてくれている人がいるって思ってもいいのかな?)  もしそう思ってもいいのだとしたら、涙が出そうなくらい嬉しい。  冷え切っていた胸の奥が、じんわりと温かくなっていくのが分かった。  「さあシリエル、そろそろ行かないと」  僕たちの数少ない荷物を手に持ったレオンが、そっと僕の肩に優しく手を置いた。  本当はずっとカノンちゃんやヘイワードさん、ベイカーさんのところで暮らしていきたい。  けれど、これからマーサさんのお店を守っていくには、賑わう夜の時間帯に店に詰めておく必要がある。それに、あの乱暴な男たちが昼間に襲ってこないとも限らない。  だから僕たちは、問題が解決するまでの間、ラルゴとネロの世話をヘイワードさんにお願いをして、マーサさんの宿の一室で暮らすことに決めたのだ。  僕はカノンちゃんを抱きしめていた腕を、そっと解いた。 「いってきます」  カノンちゃんの前髪をそっと持ち上げ、おまじないのキスをその額に落とす。  すると、カノンちゃんの真っ白な頬がみるみるうちに赤く染まっていった。  彼女はさっき僕がキスをした額を愛おしそうに手で触れると、 「いってらっしゃい!」  照れくさそうに微笑みながらも、しっかりと僕とレオンの顔を見つめて、見送ってくれた。

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