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第61話 新しい生活 ②
「ここがレオンさんとシリエルさんのお部屋ですよ。部屋の中のものは、好きに使ってくださいね」
マーサさんの宿屋兼酒場『ともしびの宿』に到着するとすぐ、マーサさんは僕たちを部屋に案内し、鍵を渡してくれた。
窓からは柔らかな陽の光がよく差し込み、一輪挿しの花瓶には道端に咲いていた小さな野の花が、可愛らしく束になって飾られている。
部屋の中央には丸いテーブルと椅子が二脚。二人分の服がちょうど入るくらいの洋服ダンスに、一人用のベッドが二台、そして小さな本棚が置かれていた。
置かれているものはそれくらいだったけれど、部屋の中は暖かなお日様のような優しい香りが満ちていた。
「素敵なところだね、レオン」
本棚に目をやると、前に泊まっていた旅人のものだろうか、本が数冊残されていた。
パラパラとめくってみると、それらは旅の日記だったり、店やマーサさん、そして亡きご主人への感謝の言葉が綴られていた。どのメッセージからも、マーサさんたちがどれほど人々に愛されてきたのかが伝わってくる。
「僕たち……このお店、ちゃんと守っていけるかな?」
いつ、どんな形で襲ってくるか分からない乱暴な男たち。
さっきレオンに撃退されたことで、きっと次はもっと嫌な対策をしてくるに違いない。
(もしも、レオンに何かがあったら……)
不安から、どうしても悪い方へと考えてしまう。
「余裕だろ」
荷解きをしていたレオンが、ひょいと顔を上げた。
「俺を誰だと思っている? あんな奴ら、寝ていても勝てる」
レオンは僕の大好きな頼もしい笑顔を浮かべると、大きな手で僕の頭をぐしゃぐしゃと優しく撫でてくれた。
「そう、だったね」
レオンは無敵だ。心配するなんて、レオンに失礼だった。
僕の自慢のレオンがより一層頼もしく見えて、胸の奥がくすぐったくなり、自然と「えへへ」と笑みがこぼれた。
「それに……こうして俺たちだけの部屋もできた」
背後からすっと伸びてきた腕が、僕の身体を優しく抱きすくめる。
ふわりと漂うアンバーの香りが、僕の全身を包み込んでくれた。
「俺たちだけの世界だ」
宮殿にいた頃は、レオンと僕とでは住む世界が違いすぎていた。
旅に出て二人で過ごす時間は増えたけれど、その時間を噛みしめるだけの余裕が、あの頃の僕にはなかった。
ヘイワードさんの家にお邪魔していた時も、僕たちはあくまで居候だった。
けれど今、僕たちはこの『ともしびの宿』で護衛として働こうとしている。マーサさんの気遣いで仕事としてお手当も出るのだ。
レオンの力が必要で、僕の力なんて微々たるものかもしれない。けれど僕たちは二人で、初めて住む場所を自分たちの力で作り、お金を稼ぐことができるのだ。
「本当に……僕たちだけの世界だね」
今はまだ仮住まいだけれど、いつか本当の僕たちの家を持てるようになったら……。
僕たちは温かい家庭を持ち、もしかしたら家族が増える日を心待ちにできたりするのだろうか。
今までまったく想像すらできなかった未来の夢に、鮮やかな色がついていく。また「ふふっ」と笑みが溢れてしまった。
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