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第63話 レオンの痣 ①
「レオン。一つ、お願いがあるんだ」
落とされていたレオンの視線が、ゆっくりと僕に戻ってくる。
「僕と二人っきりの時は、手袋を外してほしい」
僕の言葉にハッとしたレオンは、革手袋で隠された右手を、慌てて左手で覆い隠した。
「……前より、ひどくなっているの?」
返事は返ってこない。重い沈黙が、肯定を意味していた。
僕はそっとレオンの左手を右腕から離すと、その右手にはめられた黒い革手袋に手を添えた。
かつてマルコさんの家で見た、レオンの手。
あの赤黒い痣が、鮮明に思い出される。
あの不吉な痣が、今もレオンの身体を侵食し続けているのだ。レオンの命を少しずつ奪っていく。
(そんなこと、絶対に許さない……!)
「取っても……いい?」
レオンは何も言わなかったけれど、ゆっくりと僕に右手を差し出してくれた。
僕の手で、丁寧に手袋を滑り落とす。
露わになった皮膚には、あの赤黒い痣がくっきりと浮かび上がっていた。
僕はそっと、レオンの右手を両手で包み込んだ。
ゴツゴツとした長い指。掌の指の付け根には、剣を握り続けてできた硬いタコがびっしりとできている。
けれど、手の甲や指を覆う痣は少しだけ膨らみを持ち、そこだけが氷のように冷たかった。
この手で、レオンは僕をずっと守ってくれていたのだ。
「レオンの手は……綺麗だね」
ゴツゴツしていて、剣のタコがあって、凍えるように冷たい痣もある。
けれど、たまらなく愛おしかった。
僕はレオンの右手を引き寄せ、自分の右頬にそっと押し当てる。
傷だらけのこの手が、レオンがひとりで抱え込んできた痛みを僕に伝えてくれているようだった。
「愛してるよ、レオン。僕が絶対に、この痣を治してみせるから」
レオンを苦しめるものすべてを、僕が排除してみせる。
それが、僕を救ってくれたレオンにできる唯一の恩返しだ。
「痛みはあるの?」
「……ない」
氷のように冷たい痣。
手がかじかむほどの冷たさなのに痛みがないということは、痛覚さえも奪われ始めているのかもしれない。
レオンは自分の身体がこんなことになるまで、一体どんな薬を飲み続けていたのだろう。
身体を壊してまで飲み続けなければならなかった理由とは、何なのだろう……。
僕はそっと、レオンの手の甲にある痣に優しく口づけをした。
その瞬間、レオンの右手がピクリと揺れた。
もう一度、吸い付くように痣へ口づける。また、レオンの右手が跳ねた。
「……痛いの?」
「いや……。でも、なんだか変な感じがする」
見上げると、レオンが不思議そうに自分の右手を見つめていた。
「変な感じ?」
「ああ。シリエルが口づけをしてくれた一瞬だけ……ほんの少し、温かさを感じるんだ」
そう言われてレオンの痣に触れてみるけれど、まだ氷のように冷たいままだ。
けれど、レオンは温かいと感じてくれた。まだ希望はある。完全に死に絶えているわけじゃない。
僕はレオンの服の袖をグッと捲り上げた。
布地で隠れていた腕の皮膚にも痣が広がっている。
(腕にあるということは……もしかして、身体にも……?)
「レオン、上の服を脱いで」
「え? どうして……」
「いいから、早く!」
「あ、ああ……分かった」
僕の剣幕に困惑しながらも、レオンは身につけていた服を脱ぎ、上半身を露わにした。
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