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第64話 レオンの痣 ②
「やっぱり……っ」
鍛え上げられた胸や腹には、かつての戦いでついた傷跡と、そして痛々しい赤黒い痣が広がっていた。
右手から始まった痣が、腕、肩、腹、そして背中にまで転々と侵食している。
「どうして……こんなことに……」
マルコさんが『死ぬなよ』と言っていた言葉の本当の意味が、ようやく分かった。
この痣が全身に広がり切った時、レオンに死が訪れるのだ。知識のない僕にでも、容易に想像がついた。
「レオン……」
胸に浮かぶ痣に、そっと手を当てる。
手の甲に比べれば、まだ冷たさは弱かった。
僕は掌でその皮膚を包み込みながら、一つひとつ丁寧に口づけを重ねていく。
触れられるたびに、レオンの身体がビクッと大きく震えた。
「ごめんね……もう少しだけ我慢して……」
皮膚に触れ、祈るように口づけを繰り返していくと、掌から伝わってくる冷たさが、ほんの微量だが和らいでいく気がした。
(もしかしたら……僕の手で治せるかもしれない)
気のせいかもしれない。単なる思い込みかもしれない。
それでも、レオンの身体にほんの少しでも温もりが戻ってくれたことが、たまらなく嬉しかった。
(もっと僕が頑張れば……レオンの痣はきっと良くなる……!)
「レオン、こっちに来て」
僕はレオンの手を引き、シーツがピンと張られたベッドの縁へ腰掛けさせた。
「シリエル……?」
戸惑うレオンの肩を強く押し、そのままベッドの上へ押し倒す。
「ごめんね。もう少しだけ……我慢して……」
レオンの上に覆いかぶさり、首の根本にある薄い痣へと口づけを重ねた。
「っ!」
レオンの身体が大きく跳ねる。
心なしか、痣の色がわずかに薄くなったような気がした。
無我夢中で何度も何度も口づけを繰り返した。
そのたびにレオンの肩が荒く上下し、濃密なアンバーの香りがふわっと部屋の中に広がっていく。
(なんだか……頭が……ふわふわする……)
レオンの痣を治してあげたい一心だったはずなのに、身体の奥から急激に熱が湧き上がってきた。
宮殿にいた頃は、こんなふうに身体が熱くなったことなんて一度もなかったのに。
どうして急に、こんな……。
あの冷たい宮殿を出て、レオンと二人で過ごす時間が増えたからだろうか。
今まで深く眠っていたオメガとしての本能が、レオンの雄々しい香りに触発されて、一気に目を覚ましてしまったみたいだ。
お腹の奥がじわじわと甘く疼きだし、全身の皮膚が熱を帯びていく。
羽織っていた上着を脱ぎ捨て、綿のシャツ一枚になっても、身体の火照りはまったく収まらない。初めて味わう体の深部からの熱にめまいがして、僕は胸元のボタンをいくつか緩めた。
(だめだ……早くレオンを……治してあげないと……っ)
熱に霞む視界のまま、必死にレオンの胸や腹の痣へと唇を寄せる。
「シリエル……ッ!」
レオンが何かを堪えるような、低く熱い吐息を漏らした。
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