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第74話 不安な気持ち ③

 勢いよく部屋の扉を開け、中に駆け込むと同時にベッドへ飛び込んだ。  朝起きた時に綺麗に整えたシーツを手繰り寄せ、深く、深く息を吸い込む。生地に残ったレオンの香りが体の中に流れ込んでくると、胸の奥のざらついた不安がほんの少しだけ溶けていく気がした。  走ってきたからだけではない、乱れた鼓動が次第に落ち着いてくる。  エリアスさんは、間違いなく良い人だ。  けれど、彼と一緒にいると、僕の心と身体がチグハグな動きを始めてしまう。  エリアスさんの行動や言葉のひとつひとつに、胸が痛いほど跳ねてしまうのだ。  初めて出会った時に感じたあの衝撃が、時間を置くごとに重く、鮮明になってくる。  まるで——心はレオンを愛しているのに、本能はエリアスさんに引き寄せられているような……。 (……っ、違う……違う……っ!)  頭に浮かびかけた恐ろしい考えを打ち消すように、僕は必死で首を横に振った。  頭の隅に芽生えてしまったその仮説が、少しずつ大きくなって僕を呑み込んでいくのが怖くてたまらない。  僕は跳ね起きるようにベッドを抜け出し、衣装棚の扉を勢いよく開けた。  まだ数の少ないレオンの服をかき集め、両腕いっぱいに強く強く抱きしめる。 「大丈夫……。僕は、大丈夫……。僕たちは……、絶対に大丈夫……」  頭から離れない恐ろしい予感を掻き消すように、何度も何度も声に出して自分に言い聞かせる。  なのにエリアスさんと初めて出会った瞬間の、あの全身を貫いた激しい衝撃が頭から離れてくれない。 (僕の運命の人は……レオンだ。レオンなんだ……っ) 『運命の番』に出会った時、オメガの身体は抗えない本能で反応してしまうと聞いたことがある。  自分がオメガであること、そして本能という力に身体が裏切られそうになっていることが、怖くて、恐ろしくてたまらなかった。 (大丈夫……。僕の運命の人は……レオンなんだ!)  僕はレオンの服を胸に強く抱きしめたまま、すがるようにベッドの中へ潜り込み、固く瞳を閉じる。

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