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第80話 初めてのヒート ②

 どれくらいの時間が経ったのだろう。  熱の海に溺れ、意識を手放しかけていた、その時だった。 「——シリエル!!」  バンッ!  鼓膜を揺らすような音とともに、扉が勢いよく開け放たれた。 「っ……!」  ハッと意識を引き戻される。  霞む視界に飛び込んできたのは、肩を激しく上下させ、青ざめた顔をしたレオンだった。  乱れた髪。  荒い吐息。  いつも冷静で気品のある彼からは想像もつかないほど、焦燥を露わにしている。 「レ……オ……ン……」 「シリエル……っ!」  部屋に充満する濃厚なフェロモンに、一瞬息を呑んだレオン。  けれど、床に崩れ落ち、震えている僕の姿を見るや否や、なりふり構わず駆け寄ってきた。 「なんて熱だ……! シリエル、しっかりしろ!」  床に膝をついたレオンの腕が、僕の身体を強く抱き上げる。  冷たい床から引き離され、包み込まれたのは——ずっとずっと恋焦がれていた、本物のレオンの胸だった。 「あ……あ……レオン……っ」 「大丈夫だ。俺がいる! もう大丈夫だからな……っ!」  壊れ物を扱うような優しさと、決して逃がさない強さ。  その腕に抱かれたまま、僕はベッドへ運ばれていく。  柔らかなマットレスに身体が沈み込む。  レオンは僕の震える両手を、固く包み込んだ。 「レオン……熱いよ……。僕、身体が……おかしくなっちゃいそうで……っ」 「分かっている。分かっているから……っ!」  熱に浮かされ、涙で濡れた僕の頬を、レオンの大きな手が包む。  その手さえ燃えるように熱く感じるほど、僕の身体は自分の意思から離れていく。  それでも、レオンのアンバーの瞳に宿っていたのは、恐怖に怯える僕を命懸けで守ろうとする、強い意志だった。 「すまない、シリエル……。俺のせいだ。俺がそばに付いていなかったばかりに……っ」  胸を刺されたように、レオンが顔を歪める。  僕を抱く腕に、痛いほどの力がこもった。  もう限界だった。  身体の奥が激しく疼く。  本能が、愛しい人を求めている。 「抱いて……お願い……」  僕はすがるようにレオンの首へ腕を回し、涙ながらに懇願しながら、耳たぶを甘噛みした。

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