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第82話 隠されていた真実 ①

 真っ暗な世界の中、ぴちゃぴちゃと水滴が落ちる音が聞こえていた。  重たい瞼をゆっくりとこじ開ける。  ぼやけた薄暗い天井が視界に飛び込んできた。  耳を澄ませると、その音は窓の外、花台に跳ねる雨粒の音だった。  ゆっくりと身体を起こし、あたりを見渡す。  ぼやけていた世界に、少しずつ部屋の輪郭が浮かび上がってきた。  部屋の中には、僕一人しかいない。  そこには、もう何の匂いも残っていなかった。  隣のシーツにそっと手を伸ばす。  けれど、そこにレオンの体温はなかった。  そっと、自分のお腹とうなじに触れる。 「やっぱり……」  お腹の奥には、確かにレオンと強く繋がった感覚が残っている。  なのに……うなじには、何の痛みも、何の違和感もない。  本当に、何ひとつ。 (レオンは……噛んでくれなかったんだ……)  身体は綺麗に拭き取られていた。  シーツにも、何ひとつ痕跡が残っていない。  その清潔さが、まるで『昨夜の出来事なんて、最初からなかった』と言われているようで、胸が重く痛んだ。  僕を選んでくれなかった……。  伴侶になりたいと言った僕に、「嬉しい」と微笑んでくれた。 「誰にも渡さない」と言ってくれた。  不滅の誓いの指輪まで、僕にはめてくれた。  なのに。 (どうして……うなじを噛んでくれないの?)  レオンはベータ。  だから僕たちの間には、決して『番の刻印』は刻めない。  それでも僕は、レオンのものだという証が欲しかった。  何よりも、欲しかった。  身体は抱いてくれたのに、どうして……?  出来損ないだった僕に、やっと待ち望んでいたヒートが訪れたというのに。 (……ヒートになったきっかけが、エリアスさんだったから……?)  昨夜の光景が脳裏をよぎる。  身体が恐怖でざわついた。  レオンにどれだけ触れられても起きなかったヒートが、エリアスさんに触れられた途端に引き起こされた。  認めたくなかった。  けれど……認めざるを得なかった。 (エリアスさんが……僕の『運命の番』なんだ)  ずっと欠陥品だと思っていた僕にヒートが訪れたのは、他でもない。  エリアスさんという存在がいたからだ。  その事実に、レオンが気づいてしまっていたら。  もし、レオンがすべてを知ってしまったら……。  僕を手放してしまうのだろうか。  考えただけで、背筋に悪寒が走る。  レオンのいない部屋。  レオンのいない未来。  そんなもの、考えたくなかった。 (力尽くでもいい……僕を必要だと言ってほしい)  強引にでも、腕を掴んで、僕を繋ぎ止めてほしい。  レオンはいつだって僕を愛してくれる。  けれど、肝心なところでは僕の意思を尊重し、一線を引いてしまう。  その優しさが、今はたまらなく怖かった。  いつかその優しさのまま、僕を静かに手放してしまうのではないか。  そう思うだけで、胸が締め付けられる。 「レオン……っ」  すがるようにその名を呟いた、その時だった。  ガチャリ、と重い音を立ててドアノブが回る。  ゆっくりと扉が開き、濡れた黒い髪を揺らしてレオンが部屋に入ってきた。  手に持った盆には、温かな湯気が立つ湯呑みが二つ載せられている。

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