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第83話 隠されていた真実 ②
「……シリエル、起きたのか」
僕と目が合った瞬間、レオンの脚がぴたりと止まった。
その表情は酷く疲弊し、どこか痛々しいほど陰っている。
よく見ると、右腕には重厚な包帯が巻きつけられていた。
昨夜、僕のうなじの代わりに噛んだ、あの傷だ。
「体調は……どうだ? 気分は悪くないか?」
レオンは静かな歩調でベッドへ近づくと、盆をサイドテーブルに置き、僕の隣に腰掛けた。
いつもならすぐに差し出されるはずの大きな手が、迷うように膝の上で握り締められている。
「レオン……どうして、噛んで……くれなかったの?」
聞くのが怖かった。
僕を必要としていない。
そんな答えが返ってきたら、どうすればいいのか分からなかった。
それでも、聞かずにはいられない。
レオンの瞳が、切なげに揺れた。
「……すまない、シリエル」
低い声が、静まり返った部屋に落ちる。
レオンは深々と息を吐き、ゆっくりと首を横に振った。
「俺は……お前のうなじを噛むわけにはいかなかったんだ」
「どうして……っ? 僕は、レオンのものになりたいのに! レオンの伴侶になりたいのに……っ!」
溢れ出す涙を拭うこともできず、僕はレオンの服の袖にしがみついた。
噛んでくれなかった。
その事実が、何よりも恐ろしかった。
けれど、レオンは優しく、そしてどこか拒むように僕の腕を包み込むと、そっと手を解いた。
「違うんだ、シリエル」
その声は、ひどく苦しそうだった。
「俺が……俺がお前を騙していたんだ」
「え……?」
「俺はずっと、お前に嘘をつき続けていた」
レオンが自嘲するように口元を歪める。
その瞳には、隠し通してきた罪悪感と、狂おしいほどの愛が満ちていた。
「お前がヒートを起こさなかったのも……出来損ないだったからじゃない」
「……え?」
息が止まる。
レオンはしばらく何も言わなかった。
そして、逃げることを許さないように僕を見つめた。
「俺がずっと……お前に『抑制剤』を飲ませていたんだ」
息を吸い込んだまま、時が止まった。
(どう……して?)
その言葉すら、口から出なかった。
レオンと出会ってから今までの出来事が、走馬灯のように頭の中を駆け巡る。
(いつ……? どこで……? どうして……?)
必死に記憶を辿りながら、レオンの不審な動きを探す。
けれど、どこにも見つからない。
思い出されるのは、レオンのそばにいられた幸せな記憶ばかりだった。
僕の、大切な記憶。
なのに……。
(その全部が……嘘だったっていうの?)
目の前にあった幸せな記憶が、音を立てて歪んでいく。
どれが本当で、どれが嘘なのか。
もう、何も分からない。
今、目の前にいる人は、本当に僕が愛したレオンなのだろうか。
確かに、レオンだ。
いつも僕を守ってくれていた、あのレオン。
……そう、思いたい。
(違うの……?)
さっきまで誰よりも近くにいたはずのレオンが、一瞬で遠い人になった。
「……説明、して」
ようやく絞り出した声は、自分でも驚くほど冷たかった。
感情をすべて閉じ込めて、ただ事実だけを受け止めようとする。
レオンは、そんな僕の視線から逃げなかった。
ごくり、と生唾を飲み込む音が静かな部屋に響く。
そして、重たそうに口を開いた。
「俺とシリエルは、出会った時から身分差がありすぎた。……それでも、俺はお前のそばにいられるだけでよかった」
レオンの声が、わずかに震えた。
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