84 / 91

第84話 隠されていた真実 ③

「お前が王妃になると決まった時も……それを受け入れようと思った。お前が幸せになれるなら、それでいいと」  そこで一度、言葉が途切れる。  握り締めた拳が、小さく震えていた。 「でも……できなかった」  押し殺した声だった。 「お前が誰かと番になるなんて……考えただけで、気が狂いそうだった」 「……レオン」 「それでも、何度も自分に言い聞かせた。シリエルの幸せを考えろって。俺が身を引けば、それでいいんだって」  レオンは苦しそうに目を伏せる。 「……でも、怖かった」  その一言だけが、ひどく幼い子どものように聞こえた。 「もし……もし、お前にヒートが来なければ。もし、お前が王の正妃となったとしても、番にさえならなければ……お前は、ずっと俺のそばにいてくれるんじゃないかって」  胸の奥が、ずきりと痛んだ。 「だから……最初は、一度だけのつもりだった」 「……え?」 「ヒートを抑える薬を、お前の茶に混ぜた」  呼吸が止まる。 「一度だけなら……そう思った。でも、お前にヒートが来なくて……王がお前を番にすることもなかった」  レオンの声が掠れる。 「それを知った俺は……薬をやめられなかった」 「……やめられ、なかった?」 「何度も、もうやめようと思った。それなのに……お前を失いたくないばっかりに、薬を混ぜ続けた」  レオンの瞳に、深い後悔が滲んだ。 「お前が自分を出来損ないだと思って苦しんでいることも、知っていた」 「……っ」 「それでも俺は……やめられなかった」  レオンは、震える息を吐き出した。 「だから……お前がヒートを起こさなかったのは、お前の身体が悪かったからじゃない」  まっすぐに僕を見つめる。  目の前が真っ白になった。  そして、レオンとの旅で少しずつ薄れていた宮廷での記憶が、鮮明に蘇ってくる。  僕を欠陥品のように見つめ、扱い、そして僕の存在そのものを消し去ろうとした王。  僕に聞こえるように交わされていた使用人たちの陰口。  悪意のこもった視線や、心を抉るような言葉。  自分の価値を上げるために、僕を貶める貴族たち。  あの地獄のような日々は……レオンのせい?    僕を守ってくれていた。  あの場所で、たった一人、僕の味方でいてくれた。  レオンの……せい?  頭を鈍器で殴られたように、脳が激しく揺さぶられた。 「言わないといけないことが、もう一つある」  レオンの声が、ひどく遠くに聞こえる。  僕はゆっくりと視線を上げた。 「それに俺は……アルファだ」  目の前の景色が、ぐらりと傾いた。  身体が支えを失い、ベッドの縁へと崩れ落ちる。  レオンの言葉が、そのまま胸に突き刺さった。  レオンが、アルファ。  嬉しい……はずだった。  幼い頃から、ずっと思っていた。 (レオンがアルファだったら……)  レオンがアルファなら、番になれるかもしれない。  そんな夢を抱いたこともあった。  ずっと、ずっと願い続けていたこと。  なのに……。  今は、その事実に怒りが込み上げてくる。  胸の奥で生まれた怒りは、火の粉を散らすように瞬く間に広がり、全身を焼き尽くしていく。

ともだちにシェアしよう!