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第84話 隠されていた真実 ③
「お前が王妃になると決まった時も……それを受け入れようと思った。お前が幸せになれるなら、それでいいと」
そこで一度、言葉が途切れる。
握り締めた拳が、小さく震えていた。
「でも……できなかった」
押し殺した声だった。
「お前が誰かと番になるなんて……考えただけで、気が狂いそうだった」
「……レオン」
「それでも、何度も自分に言い聞かせた。シリエルの幸せを考えろって。俺が身を引けば、それでいいんだって」
レオンは苦しそうに目を伏せる。
「……でも、怖かった」
その一言だけが、ひどく幼い子どものように聞こえた。
「もし……もし、お前にヒートが来なければ。もし、お前が王の正妃となったとしても、番にさえならなければ……お前は、ずっと俺のそばにいてくれるんじゃないかって」
胸の奥が、ずきりと痛んだ。
「だから……最初は、一度だけのつもりだった」
「……え?」
「ヒートを抑える薬を、お前の茶に混ぜた」
呼吸が止まる。
「一度だけなら……そう思った。でも、お前にヒートが来なくて……王がお前を番にすることもなかった」
レオンの声が掠れる。
「それを知った俺は……薬をやめられなかった」
「……やめられ、なかった?」
「何度も、もうやめようと思った。それなのに……お前を失いたくないばっかりに、薬を混ぜ続けた」
レオンの瞳に、深い後悔が滲んだ。
「お前が自分を出来損ないだと思って苦しんでいることも、知っていた」
「……っ」
「それでも俺は……やめられなかった」
レオンは、震える息を吐き出した。
「だから……お前がヒートを起こさなかったのは、お前の身体が悪かったからじゃない」
まっすぐに僕を見つめる。
目の前が真っ白になった。
そして、レオンとの旅で少しずつ薄れていた宮廷での記憶が、鮮明に蘇ってくる。
僕を欠陥品のように見つめ、扱い、そして僕の存在そのものを消し去ろうとした王。
僕に聞こえるように交わされていた使用人たちの陰口。
悪意のこもった視線や、心を抉るような言葉。
自分の価値を上げるために、僕を貶める貴族たち。
あの地獄のような日々は……レオンのせい?
僕を守ってくれていた。
あの場所で、たった一人、僕の味方でいてくれた。
レオンの……せい?
頭を鈍器で殴られたように、脳が激しく揺さぶられた。
「言わないといけないことが、もう一つある」
レオンの声が、ひどく遠くに聞こえる。
僕はゆっくりと視線を上げた。
「それに俺は……アルファだ」
目の前の景色が、ぐらりと傾いた。
身体が支えを失い、ベッドの縁へと崩れ落ちる。
レオンの言葉が、そのまま胸に突き刺さった。
レオンが、アルファ。
嬉しい……はずだった。
幼い頃から、ずっと思っていた。
(レオンがアルファだったら……)
レオンがアルファなら、番になれるかもしれない。
そんな夢を抱いたこともあった。
ずっと、ずっと願い続けていたこと。
なのに……。
今は、その事実に怒りが込み上げてくる。
胸の奥で生まれた怒りは、火の粉を散らすように瞬く間に広がり、全身を焼き尽くしていく。
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