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第四話

 後宮に入ってから、リュカはただうつうつと過ごしていたわけではない。愛妾として役に立っていくために必要な知識を、城内の図書室などで夜伽に関する書物を片っ端から読み漁って身に付けてきた。あとは愛妾同士のむつごとに関する話題に聞き耳を立てたり、時には思い切って質問をしてみるなどしたりするなど、リュカなりに努力をしてきたつもりだ。  しかしそのどれもがいうなれば机上の空論でしかなく、実践はこれが初めてだ。  目の前の半分ほどゆるく勃起している雄芯は、察するにかなりの大きさであろう。オーギュストのものは気が動転していたこともあって記憶がおぼろげではあるが、ここまでの大きさではなかった気がする。 「ほら、早くやらぬか、ルシアン」  オーギュストから急かされ、おずおずとリュカはアルベールのそれを手に取りそっと口付けてみる。じんわりと熱いそれはリュカの口付けにわずかに震え、段々と硬度を増していく。 「ッふ、ン……っはふ、ンぅ……」 「っふ……っは、っく……」  リュカが口いっぱいに頬張るようにして雄芯を愛撫していると、わずかに頭上から喘ぐような声が漏れ聞こえる。アルベールも、リュカの舌や口中を感じてくれているのであろうか。  反応が見えるとやる気が増し、一層心地よくしなくてはと言う気持ちが働く。知らず知らずのうちに竿を持ってしごき、自らも先端を口の中で味わうように口付ける。  口中でアルベールが硬度と大きさを増していく中、ふと、目の前に座っているはずのアルベールの体勢が変わった。覆い被さるような体勢になったかと思った次の瞬間、リュカがつきだすようにしていた臀部(でんぶ)にぬるりとした感触、そして大きな異物感を覚えた。 「ンぅ! ッふ、ンぅ……!」  アルベールが屈み、後孔をいじられているのだと気付いた時には指の一本が挿し込まれていた。そうしてそのまま中をまさぐるような動きが続き、抜き差しが始まる。どうやら交わるための準備を始めているのであろう。  後宮に入ったことで、いつでもオーギュストの相手ができるように身体の準備は常に整えておけと言われているため、一からの準備ではない。しかしそれでも、リュカはそこに誰も迎え入れたことがないため、たとえアルベールの指であったとしても、初めて覚える感覚には違いなかった。 「ッは、あ、ンぅ! あ、ああッ」 「どうしたルシアン。口がお留守になっておるぞ。アルベールにばかり奉仕させるんじゃない」 「も、申し訳ございま、せ……あ、ンぅ!」  まるで電流が走るような感覚に、膝立ちする脚が震えてしまう。アルベールの雄芯を握りしめ、なんとか快感を施そうと思うのに、自由が利かない。唇はとっくに口淫を止めてしまっており、ただアルベールから与えられる快感にあえいでしまう。だがその狭間にも、ルシアンの名を呼ばれて心が濁ってしまいそうになる。  それでも課せられている命令を果たさなくては。何とか口淫を再開させようとしたリュカであったが、次の瞬間アルベールに抱え上げられ膝に乗せられていた。  上目づかいで窺う漆黒の瞳には欲情の色が混じり、リュカの心を掻き乱していく。見つめ合うほどに触れ合う肌から溶けてしまいそうに熱い眼差しだ。  アルベールはそっとリュカの頬を撫で、まっすぐに見つめたまま告げてくる。 「あなたを、いまから抱く。よいか?」  熱い吐息交じりの囁きは小さく、リュカの耳にわずかに届いたかどうかだった。しかし不思議とこれから起こることにリュカは恐怖を覚えなかったのだ。オーギュストの時はただ恐怖でしかなかったのに。 「はい……お願いいたします」  射貫かれてしまいそうな瞳だ――そう、リュカは見惚れていたその時、下肢の方に熱い痛みが走り、リュカは悲鳴を上げた。 「あッ、あぁぁう!」  リュカの中にアルベールが入り込み、隘路(あいろ)を押し開いていく。熱い痛みと圧迫感に呼吸が止まりそうになり、ぎゅっとアルベールにしがみ付いていた。  大きな背に腕を回し、ただただ振り落とされないようにするのでリュカは精一杯だった。アルベールを心地よくする余裕などまるでなく、気を失わないのが不思議なくらいだ。 「あン! あ、あぁう!」 「おお、ルシアン! なかなか善い顔をしておるな! そうか、お前はそのように扱われると善いのだな。アルベール、もっと激しく突いてやれ。多少乱暴でも構わん」  その方が善いようだからな、と言うオーギュストの声が聞こえた気がしたが、快感の波の呑まれているリュカにはよく聞き取れなかった。  確かにアルベールの腰は激しく打ち付けられ、小柄なリュカはそのたびに強い衝撃を受けていたのだが、不思議と痛みはなかったのだ。痛み以上に押し寄せる快感が大きく、施された香油以上に体液があふれ出るような感覚に陥ったほどだ。  リュカは喉を反らして喘げばアルベールはその細い喉に口付け、そっと頬まで優しく愛撫して快感を促していく。口付けだけでなく背や腰のあたりを撫でる手付きもやさしく、初めてのまぐわいに緊張していたはずリュカの体は、いつの間にかとろけるようになっていた。 「あぁ! らめ、出る……出ちゃい……うぅ……」 「いい、遠慮することない。感じるままに声を上げるんだ」  最奥から込み上げてくる快感の大きな波に震える体を、アルベールは丁寧に優しく促すながら触れてくる。快感の突破口まで導かれるように熱が施され、やがてそれも限界を迎える。  アルベールに囁かれるままにあられもない声をあげながら、リュカはアルベールの熱を感じて絶頂を迎えた。悲鳴にも似た嬌声(きょうせい)は、広間いっぱいに響いたほどだ。 「素晴らしいぞ、ルシアン、アルベール! 誠に善いものであった」  アルベールの腕の中で果ててしまったリュカは、そのまま崩れるように長椅子の上に横たわらせられる。繋がりはほどかれ、汗と精液にまみれた小さな体は湯気が立つほど激しく消耗していた。  ぐったりと横たわるリュカの傍らにオーギュストが歩み寄り、盛大な拍手をして褒め称えている。しかしリュカはそれに対して弱く微笑むことしかできなかった。 「お褒め頂きありがとうございます」  あれほど激しい行為をしたと言うのに、アルベールは息ひとつ乱れた様子がない。汗にまみれた体を、従者に差し出されたタオルでサッと拭いつつオーギュストに礼をしている。  「善きものを見られて満足だ」とオーギュストは言い、そうしてそのまま別の愛妾の名を呼んでそのままその者の部屋の方へ行ってしまったようだ。  ようやく呼吸が落ち着いたリュカは、初めてオーギュストに褒められたはずなのにどこか氷を呑み込んだかのように静かで冷たい気持ちになっていることが不思議だった。 「大丈夫か? 陛下に言われるがまま激しくしてしまったが……」 「あ、いえ……大丈夫、です……」  ぼんやりしているので意識が混濁しているとでも思われたのか、心配そうな顔でアルベールが顔を覗き込んでくる。大丈夫と答えはしたものの、リュカの声はガラガラに嗄れていた。快感を受け止めるのに夢中で、どれほど自分が激しく声を上げていたのかと思うと、恥ずかしさがいまさらに湧いてくる。 「さ、これを飲むといい。少しは喉がマシになるだろう」 「ありがとうございます……」  アルベールに水入りの杯を差し出され、有り難く受け取って半分ほど飲み干す。ようやく潤いを得てホッと息がつけると、どうにか無事に王命をこなせたことに安堵できた。 「アルベール様、ありがとうございました。お陰様で、どうにかまだここを追い出されずに済みそうです」  正直に感謝している思いを込めてそう述べたのだが、アルベールは安堵したように微笑んではくれなかった。複雑そうに苦い笑みを浮かべ、「……そうか」とだけ呟く。 「今日はもうゆっくり休むといい。初めてなのに激しくしてしまい、すまなかった」  アルベールはそう言ってリュカの頭を撫でると、大判のタオルをまとったまま浴場へと案内されていく。その大きくたくましい褐色の背中は美しく、まるで彼の立ち居振る舞いそのものに見えた。  そうして一人残されたリュカは、先程撫でられた頬に自分の手を重ねながら、ひどく気持ちが落ち着いていることに驚いた。王命とは言え、人前で性交をさせられたというのに。 「何故だろう……陛下の時と違って、全く怖くなかった……」  激しさで言えばアルベールとの行為の方が激しかった気がするのに、恐怖心は微塵も感じられなかったのは何故なのだろう。それはもしかして、やさしく撫でつつ声をかけられていたからだろうか?  それよりなにより――リュカは裸のままの胸元にそっと右手を宛がい、トクトクと少し早く鼓動する心臓の音を聞きながら考える。なにより、またアルベールに触れられたい、せめてまた言葉を交わしたいと思っているのはどうしてなのだろう。  初めて覚える感覚や感情ばかりで身も心も忙しかったリュカは、その晩深く深く眠ったという。

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