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第五話

「あ、アルベール様! いけませ……ンぅ!! ッあぁ!!」  リュカの叫び声もむなしく、アルベールはリュカの花芯から口を離すことはなかった。熱い舌を這わされ、鈴口を吸われ、先走りはあふれる端から飲み込まれていく。逃れようにも腰のあたりからしっかりと捕らえられてしまい、ただただ一方的に与えられる快楽を享受するしかない。無意識のうちに腰が振れ始め、咥えられている箇所からは濡れた音がどんどん大きくなって流れていく。  与えられる快楽に何とか耐えようと細い腕で体を支えてはいたが、それもままならない激しい愛撫と口淫に、ついには長椅子に身を横たえてしまった。 「あ、ん! っはぁ、あぁ、あ、あ、っら、め……らめ、れ、あ、ンぅ!」  黙々とアルベールは口淫を続け、リュカにとめどなく快楽を与え続ける。幼子のようにいやいやと首を横に振ったり、肩をつかんでどうにかアルベールを引き離そうとしたりしたが、全く意味はなかった。  体中の熱が下腹部に集中し、アルベールの口中の熱に包まれながら硬度を増していく。するといよいよ口淫は激しくなり、ついにはリュカを限界に導いた。 「ッや、あぁ、あ、あぅ――……ッ!!」  細い体を震わせて、リュカはアルベールの口中に白濁を放ってしまった。突き上げるように腰を揺らすリュカを、アルベールは強く抱きしめてくれる。  アルベールは喉を鳴らしてリュカの熱を飲み干してくれたが、それでオーギュストが満足する様子はない。 「何だルシアン。お前だけが善くなってどうする。お前は後宮の愛妾だろう? 奉仕されてばかりではないか」 「あ……ッはぁ。あ……も、申し訳、ござい……ッあぁ……」 「もうよい。お前からも奉仕をしてやれ。アルベールが限界を迎えておるからな」  愛妾でありながら自分の方が絶頂を迎えるほどの快感を得てしまったリュカは、オーギュストの呆れ顔の命令と周囲の愛妾たちの嘲笑を聞きながら慌てて身を起こす。吐き出した余韻でまた体は甘く痺れていたが、そんなものにひたっている場合ではない。 「アルベール、さま……こちらに……どうか……ッは、ンぅ……」 「しかし、あなたはまだ体がツラいのでは」 「……へいき、です……さあ、こちらに横にな、って……」  呼吸が荒いままのリュカを気遣うアルベールの手をそっと取り、代わりにその手に口付けをして下を這わせて応える。上目遣いでアルベールを窺うと、ごくりと喉を鳴らしてこちらを見ていた。  アルベールが欲情に満ちた眼差しを、自分なんかに向けている。その現実が嬉しくも気恥ずかしく、リュカは思わず目を伏せた。  すると視線の先には隆々と勃起したアルベールの雄芯があり、その先端からは切なげに先走りをこぼしているのが見えた。  幼子の腕ほどはあるかと思われるそれは、高く天を突くようにそそり立ち、リュカの顔面に影を落とす。実直で誠実である彼の中のある種の凶悪さを垣間見るようで、リュカの喉が無意識に鳴り、ぞくりとした興奮を覚える。 (アルベール様、苦しそう……)  先程まで与えられていた快楽に絆されている脳裏に過ぎった思考はただそれだけで、あとはほぼ無意識の行動だった。リュカは長椅子を降り、ひざまずいた体勢のままのアルベールの脚の間にうずくまると、そのまままるで飢えた獣のような姿で無防備な雄芯に口付けていた。 「リュカ殿!」  ここではルシアンと呼ばなくてはならないはずのリュカの名を、本名の方で呼んでくれた。とっさに口をついて出たのだろうが、無意識下の中で自分をそちらで呼んでくれていることが何よりリュカは嬉しかった。  アルベールの前では、リュカでいられる。それは例えようのない喜びであり、そう呼ばれた上で彼と睦み合えるのであれば――たとえこの状況が無茶な王命によるものだとしても――ささやかな幸せを感じられると言っても過言ではなかった。  アルベールのそれは、やはりとても大きく太く、リュカの小さな口には到底収まりきらない。それでも懸命に口淫で奉仕していると、ふと、アルベールが覆い被さるように重なって来る。 「ん、ンぅ! ぅ、んぅ!!」  折り重なるように覆い被さってきたアルベールの重みと熱い肌を感じた次の瞬間、リュカは無防備に突き出していた腰のあたり――後孔に何かが入り込んでくる感触を覚えた。  それは明らかにアルベールの指だった。しかも複数本を咥えこまされている。 「っははは! アルベールも耐えかねて奉仕してやろうというのか? よいぞ、もっと睦み合え!」  オーギュストからの指示が飛び、アルベールが従うように後孔の指を蠱惑(こわく)的に動かしてくる。内壁を得振るようになぞり、奥へ奥へと挿し込んでくる。そうされるたびにリュカの体はアルベールの指を締め付け、放すまいとしがみ付く。  リュカの体が反応すると、口中のアルベールがぐっと硬度を増していくのがわかった。より一層硬くなっていく熱はリュカが咥えこむには限界がある。  熱と息苦しさで意識が朦朧としてきたその時、不意に口中からアルベールの雄芯が引き抜かれた。  何故? と、問うように見上げようとしたが、すぐさまリュカは四つん這いの体勢を取らされ、腰を突き上げさせられる。あ、と思った時には、再びアルベールが覆い被さってきていた。 「リュカ、あなたを抱かせてくれ」  耳元で熱い吐息と共に囁かれた言葉にうなずくと、ググッと熱く硬いものがリュカの中を押し開いていくのがわかった。隘路(あいろ)に押し入って来たそれを実感した途端、リュカは吐精することなく極まってしまったのだ。 「あ、あぁッ……!!」  熱が身体の中で爆ぜるように湧き上がり、快感が駆け巡っていく。初めて覚える快感に、リュカは嬌声すら上げられない。白く細い体を反らせ、喉を見せるように極まる姿は、ある種の美しさがあった。 「ッあぁ、っく……!」  その瞬間、リュカの中に熱いものがほとばしり注がれるのを感じた。恐らく極まった時に締め付けた衝撃で、アルベールもまた絶頂を迎えたのだろう。胎の中に注がれる熱に導かれるようにリュカもまた白濁を吐き出して極まり、体を震わせる。  床に敷かれた高価な敷物の上にはリュカの中に納まりきらなかった白濁が滴り、模様を成していく。互いに極まったアルベールとリュカは、そのまま折り重なるようにしてぐったりと倒れ込んでいた。  こうしてまぐわいの頂点を迎えたことで、広間の中は水を打ったように静まり返っていた。そこにいる誰もが崩れるように重なっているアルベールとリュカの姿に見入っていたとも言える。  しんと鎮まっているその中に、突如として大きな拍手が聞こえ出す。意識が|朦朧《もうろう》とするリュカがようやくの思いで顔を上げると、それまで向かい側に座ってあれこれ茶々を入れながら見物していたオーギュストが拍手をしていたのだ。 「見事だ、アルベール、ルシアン。なかなかに見応えのあるまぐわいであったぞ」 「あ……ッは、い……ありがと、ございま……す……」  またしても褒められてしまった。後宮に勤める愛妾でありながら、王ではない相手と睦み合うことで王を喜ばせてしまった。後宮の者として許されるとは言い難い事なのに褒められる。その歪んだ現状にリュカは罪悪感を拭いきれない。  それでも誉れであることに変わりはないため、礼は言わねばならないだろう。 (でも……喜んでいいのだろうか……陛下は一応お喜びのようであるけれど……)  いつまでも崩れた体制のままでは失礼に当たるだろうかと身を起こそうとしたのだが、アルベールがまだ繋がりをほどいてくれていない。 「あ、アルベール様……あの、お体を……」 「あ、ああ、すまない……」  覆い被さったままでいたアルベールがそっと体を放そうとしたその時、ずるりと抜けていく熱棒の感触が、過敏になっているリュカを刺激する。だからつい、「ンぁ……ッ」などと声を漏らしてしまったのだが、それが何故だか妙に艶めかしく響いた。リュカ自身でもハッとして口元を抑えるほどのそれは、当然オーギュストにもアルベールにも聞こえている。 「す、すみません……はしたない声を……」  繋がりを解いたことで余韻はまだ尾を引いていたし、何より抑えを失くした熱が逆流してくる感触もある。しかしもうこれ以上、オーギュストの前でアルベールとの行為の余韻を見せつけるわけにはいかない。  リュカは残る余韻を何とか振り切り、姿勢を正してオーギュストを見上げたのだが、彼の眼は全く笑っていなかった。その眼差しの冷たさに、リュカはひゅっと呼吸が止まりそうになったほどだ。その目はあのベルナール公爵に向けていたものと同じ色をしており、リュカは一層身を縮める。 「……よい。それだけアルベールとのまぐわいが善かっただけの話だ」 「いえ、あの……」  どう言い訳をしようかと内心蒼ざめているリュカに対し、オーギュストは穏やかな声で、だが全く笑っていない目を向けながら「善いものを見せてくれたのだから、褒美をやらねばな」と呟いた。 「いいえそんな! 畏れ多いです!」 「よい、受け取れ」  そう言いながらオーギュストがリュカに放ったのは、指にはめていた指輪の一つだった。金色の太い輪には細やかな細工が施され、さらにルビーやサファイヤといった宝石の欠片が惜しげもなく散りばめられている。リュカの手の中できらめくそれを前に、リュカはもとよりアルベールもまた言葉を失っていた。 「あ、ありがとうございま……す……」 「今宵はもう休む」  オーギュストがそれだけを言い残して広間から去っていくのを、リュカは呆然としたまま見つめていた。遠ざかっていく背中は何者も寄せ付けない冷たさがあり、リュカは呆然と見送る。  広間に残されたリュカは、アルベールの方を気まずく見つめながらため息さえつけないでいた。  王からの褒美として身に着けているもの、特に宝飾品を下賜(かし)されるなど、誉れの中でも最上級と言えよう。そのせいか先日またしてもアルベールと睦み合うことでオーギュストから誉れの言葉と褒美をもらってしまったリュカは、一層後宮内では白い目で見られるようになっていた。  しかしそんな中でも、唯一嬉しいことが起こってもいた。 「ルシアン様、お手紙が届いております」 「ありがとう」  従者が部屋に運んできた一通の手紙を受け取り、リュカはそれの封を切る。そっと開いた中には美しく流れるような文字が綴られていた。 『光の人、リュカ殿。 先日はお便りをありがとう。まさか返事をもらえるとは思っていなかったので、大変驚いている。 その後、体調はいかがだろうか? この前もまた、俺はあなたに随分と無体なことをしてしまったのではないだろうか。陛下の手前とは言え、あなたにひどいことをしてしまったことを、許してほしい。 またあなたと言葉を交わせたらと思っている。 アルベール=グランディ』  二度目のまぐわいの命令を受けて睦み合った翌日、アルベールから詫びの手紙が届いたのがそもそものきっかけだった。内容としては、前回同様リュカにひどいことをしてしまっていないかとか、体の調子を尋ね気遣う内容であったりとか、真面目で誠実な人柄をうかがわせるものだ。  丁寧な文字で綴られた手紙の文面をそっと指でなぞっていると、アルベールの声が聞こえてきそうな気さえするのが不思議だ。  手紙などもらった記憶が殆どないリュカであったが、アルベールのそれを真似て返事をしたためたところ、こうしてまた手紙が届いた次第なのだが、それは想像以上に嬉しい出来事と言える。  アルベールからの手紙にはいつも「光の人、リュカ殿」という言葉で始まっている。ともに光が由来の名前であることから、アルベールがそう記しているのだろうか。  だからリュカもまた、こう記して返事をしている。 『わたしの光の方、アルベール様  お手紙をまた頂けて嬉しいです。お陰様で体の調子はすっかり良いです。わたしはこう見えて結構丈夫なのですよ。  アルベール様こそ、陛下のご命令とは言え、わたしなんかのお相手を二度もさせてしまい、申し訳ありません。  もし御不快でなければ、またどこかでお話しできたらと思っております。 リュカ=ベルニエ』  互いにまた話をしたいと願ってはいるが、そうやすやすと叶うことはないだろう。リュカは後宮で籠の鳥であるならば、本来アルベールはその鳥の姿を見ることもかなわない一介の公爵でしかないのだから。  自分たちの置かれている立場を思えば、こうして手紙をやり取りしていることも褒められることとは言い難いかもしれない。しかしリュカにも、恐らくアルベールにもやましいところは何もないつもりだ。  次はまたいつ会えるともしれないお互いを想いながら、「光の人」「光の方」と互いを呼び合い言葉を綴ることに、リュカはこれまでにない幸せを感じていた。  ただ一つ気になることがあるとすれば、アルベールが手紙の中で悩みのような事柄を綴っていることだろう。 『俺は陛下に忠誠を誓いながらも、たとえ陛下のご命令とは言え、あなたを穢してしまっているのではないだろうか。 後宮は本来、すべてが王のものであるべきで、俺のような一介の公爵が触れていいものではない。 それでもこうしてあなたと言葉をやり取りすることは、果たして許されるのだろうか』  忠誠心が厚く、誰よりも真面目で誠実なアルベールだからこその苦悩に、リュカはどう答えれば良いのか、ペンが停まってしまう。オーギュストはそんな狭量な方ではないと返してみようかとは思うものの、そのたびにあの冷めた眼差しを向けながら指輪を放ってきた時のことを思い出してしまう。あの眼差しは何を意味しているのか、リュカには計り兼ねるところがあった。  こんな時、もっと多くの言葉を勉強していたならばと悔やむのだが、独学で得た知識では公爵様相手に返すことができる言葉など、リュカの手持ちには限りがある。 「『わたしは、あなた様を信じております』……と、いう感じでいいのだろうか……」  もっと気の利いた言葉を綴れるようになりたい。それならばまた図書室に出向いて本を読まなければ。たくさん本を読んで、言葉を習得して、アルベールに素敵な言葉を綴って送りたい。そんな気持ちが湧いてくる。 (そしてまた図書室で偶然でもお会いできたならいいのだけれど……それは望み過ぎだろうか)  そんなささやかな奇跡を願いながらようやく綴った言葉を指でなぞり、リュカはアルベールの苦悩が解消されることを祈る。今日もまたアルベールへ想いを込めた文を書きつけていくのだった。

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