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第八話
思えばアルベールとは互いの裸も知っているというのに、口付けを交わしたことがなかった。そもそもリュカは口付けそのものが初めてで、それがこんなにも甘いものは思いもしなかったのだ。
だからなのか、息継ぎをするように一瞬唇を離した際、つい笑みをこぼしてしまう。
「リュカ? どうした?」
「いえ……口付けって、こんなにも甘いんだなと思って。初めてなのに、懐かしくなる甘さなので驚きました」
まるで一番古い記憶の中で、母親にキャンディーをもらった時のものと味も心地よさも似ている気がした。甘くてホッとする安心感があり、いつまでも味わっていたいと思える。
そんな風にいまのこの一連の流れを話していると、アルベールが何かに耐えるような顔をしている。
「アルベール様……?」
何か気分を害するようなことを口にしてしまっただろうかと案じて顔を窺うと、突然アルベールが抱き着いてきた。音がしそうなほどぎゅうぎゅうと抱きしめ、耳元には口付けまで施してくる。
「ア、アルベール様?」
「……しい」
「え?」
「なんて愛しいんだ、リュカ。あなたはどうしてそうも愛しさの湧くことを易々と口にするのだ」
囁かれる言葉の甘さに驚いていると、向き合ってきたアルベールがすかさず口付けてくる。しかも深く舌を絡ませる口付けだ。先程よりも深いそれは徐々にリュカの四肢の力を奪っていく。
「ッは、ンぅ……ッふ、ン……アルベー、ル、さま……ッあ、ンぅ」
「リュカ……愛しい……あなたが、愛しい」
「ン……アルベール様……わたしも、愛し、てま……」
再びの口付けを交わしつつ、それが次第に少しずつずらされていく。重なり合っていたアルベールの唇が、やがて頬滑って耳元を舐めてなぞっていく。|耳朶《じだ》を|食《は》み、輪郭をなぞる舌の感触は一層リュカの体を骨抜きにしていくのだ。
力が抜けていくのに、体の熱は反比例するように引き上げられていくのは何故なのか。呼吸が乱れて荒くなっていく中、アルベールの舌がリュカの細く白い喉に這わされる。なぞられる喉元は煽られるように反り返り、口元は甘くほどけていく。
「ッあ、ッはぅ! ッは、あ、ああッ」
「リュカ、俺の光……愛しい、光……」
愛しいと光という特別な言葉を浴びるように囁かれるたびに、体の中にどんどん灯りがともっていくのがわかる。それはリュカの中のアルベールへの想いの大きさにも比例するように明るくきらめいている。
アルベールの愛撫はやがて喉元から滑り降りて、いつの間にかはだけていたリュカの胸元に辿り着く。口付けと愛撫で存在を小さく誇示し始めているそこにアルベールが口付けると、小さな悲鳴を上げてしまった。
「ッや! あ、ンぅ!」
キュッと指先で摘ままれつつ反対には口付けられて吸われると、リュカは一層甘い声が漏れてしまう。いままで何度かアルベールとこうしてきたが、こんなにも易々と甘い声が漏れてくることはなかったのに。
その上アルベールの指や舌が触れた箇所は、それこそ灯りがともったように熱を持ち始めているせいか、吐息までも熱を上げているようだ。
「リュカ……あなたのすべてを俺のものにしたい」
「アルベール様……わたしも、あなたのすべてが欲しいです」
想いを伝え合い、口伝えのかわしても尚足りなく思えるのはどうしてだろう。お互いを自分のものにしたいと伝え合い、吐息の交じり合うほどの近さで肌に触れ合っていてもなお、恋しさが募っていく。
(もっと、アルベール様のお傍に行きたい。もっともっと……いっそ一つになってしまえればいいのに)
言葉にはならない想いを、幾度となく口付けで交わし合う。想いは繋がり合う箇所から互いに流れていき、触れる肌から答えるように染まっていく。
アルベールの愛撫は胸元からやがて腹の上へ向かい、へそをなぞったあとでとうとう下腹部へたどり着いた。手際よく脱がされたそこは既にこれまでの愛撫で兆しを見せていて、切なげに蜜をこぼし、糸を成している。
はしたないとアルベールは呆れるだろうかと一瞬リュカは身を縮めそうになったが、それよりも先にアルベールがそこに口付けを施し始める。ゆるく勃起したそこに口付け、先端を味わうように咥えられた。
「ッあぁ! ッはぅ!」
あふれ出る蜜を吸いあげつつ、アルベールはリュカの花芯を丁寧に味わう。輪郭をなぞるように舌を這わせ、音を立ててしごいていく。そのせいでリュカはどんどん熱を上げていき、硬度を増していく。
いままででもアルベールに奉仕されたことはあったが、今回のものは奉仕というよりも愛撫の延長であることは明らかで、触れられるごとに熱と愛情を感じずにはいられない。快感と共に体に染み入る想いを存分に味わいながら、リュカは熱の突破口を探していた。
「ッらめ、あるべー……さ、まぁ……出、るぅ……ああ、あ、あ――……ッ!!」
名前すら呼べないほど乱されたリュカは、呼吸すらままならない中で白濁を放ってしまった。アルベールはそれを一滴も余すことなく吸い上げ、味わっている。
熱を吐き出した余韻で痺れて動かない体に、再びアルベールが口付けを施しながら優しく触れてくる。過敏になっている肌は少しの刺激でも震え、声が漏れてしまう。
「ッあ! ッや、あぁ! いま、イッた、ばか、りでぇ……!」
「もっと、愛させてくれ、リュカ。俺のすべてをあなたに注ぎたい」
良いだろうかと問うように見つめられ、甘く惚けるリュカは更なる喜びの予感にこくりとうなずく。よりアルベールと愛し合えるのであれば、どんなことでも受け止める覚悟でいるからだ。
リュカの首肯にアルベールはホッとしたように微笑み、やがてどこからか取り出した香油を指にまとわせる。アルベールによって拓かれたリュカの体――彼を求める後孔の周りにも施され、やがてそこに指があてがわれた。
香油の滑りと愛撫の心地よさ、そして先程の吐精の影響なのか、リュカのそこはするりとアルベールの指を二本飲み込んでいく。ゆっくりと中を探られていくと、すぐにリュカが甘く声を漏らす箇所に行き当たる。
「あ、ンぅ……ッは、ン……あ、ああ」
指で与えられる快感はゆるく甘くリュカの口をほどかせていく。これから与えられるであろう快感を想うと、それだけでより体温が上がっていくのがわかる。そして一層、彼を欲してしまう。
「アルベール、さまぁ……ああ……体が、切ないです……」
「リュカ……」
「こんなに近くにいるのに、切なくてたまらない……どうして……」
想いも伝え合い、体液さえも交じり合い始めているのに、どうしてこうも切なく寂しさを覚えてしまうのか。もうアルベールはリュカを放さないとわかっているのに、もっともっとと求めてしまう。
こんなに近くにいて、触れ合っているのに……胸を締め付ける切なさに視界が潤むほどの想いを抱いていると呟いたリュカに、アルベールは困ったように笑う。
「どうしてだろうな……俺も、いま同じことを考えていた」
「アルベール様……」
「あなたと本当にひとつになれれば、それも少しは軽くなるかもしれないと思うのだが……良いだろうか?」
熱く火照る体に触れられている箇所が、キュッと彼を求めて切なげに窄 まる。あなたが欲しい、そう体ごと伝えるように。
きっとそれは、アルベールにも伝わっているのだろう。触れながらアルベールはもう一度リュカに口付け、「リュカ」と愛おし気に名を口にする。
リュカの中に迷いはなく、答えるように微笑んで返す。
「アルベール様のすべてを、わたしに下さい。どんな熱も痛みであっても、光であるあなたのものであれば怖くないから」
その言葉を合図とするように、リュカの後孔から指が引き抜かれていく。そうしてリュカは抱きかかえられてアルベールと向かい合う。指と入れ替わるように、入り口に熱く昂るもの――アルベールの熱棒が押し当てられている。
「リュカ、愛している」
「わたしも、アルベール様を愛しています」
口付けるように触れていた箇所が、リュカの自重と共にゆっくりと押し広げられていく。飲み込むように咥えこまれていくアルベールの熱は、じわじわと、しかし確実にリュカの隘路 を拓いていくのがわかる。
深く、より深い奥へと熱が挿し込まれていく。貫かれる熱の圧迫感に、リュカは甘い吐息をすることで耐えていた。
「ッは、ああ……ッはぁ、あぁ……奥に……あ、ああ」
「深く繋がり合えているな、リュカ……俺たちはいま、一つになっているんだ」
「はい……ン、っは、あ、あ、ンぅ……アルベール様、熱い……」
アルベールの熱を感じると、体は放すまいと彼にしがみ付き締め上げていく。その感触にアルベールが耐えるように苦し気に息を漏らし、ぐっと奥へと貫いてくる。そうされると一層リュカの胎が彼に反応し、より求めてしまう。愛しい熱を、もっとと言うように。
「ああ……リュカ……あなたの中に、俺のものだという証しを刻み込みたい」
「刻んで……刻んでください、アルベール様……あなた様のものだと、誰からも消されないように」
弱く微笑んで求めるリュカの言葉に、アルベールがごくりと喉を鳴らした。そうして口付けをどちらからともなくかわしたのを合図に、そのまま激しい突き上げが始まる。
「ッふ! ン、ンぅ! ッく、あぅ! あ、ああ!」
細いリュカの腰をつかんだアルベールからの突き上げは、逃れようがないほど激しいものだった。繋がり合った箇所からはいつの間にか吐き出されていたらしい白濁がこぼれ伝っていく。
濡れた音が部屋いっぱいに響き渡るほどに、ほどけたリュカの唇からは甘い嬌声があふれ出ていた。啼いているような声でありながら、滴るほど甘いそれは、二人の欲情をどんどん煽り立てていく。
「リュカ……リュカ……ッ!」
「あ、ンぅ! あるべー、る……さ、まぁ……ッ!」
互いの名前すら性感帯になるほどの求め合いは、やがて本当に二人を一つに繋げ溶かしていった。白濁と熱が交じり合う体は甘くとろけ、二人の境界を曖昧にしている。
抱き合う姿のまま幾度目かの絶頂を迎えるリュカの中に、アルベールの熱があふれんばかりに注がれていく。リュカはそれを全身で受け止めながら、白濁とは違った熱まで吐き出していた。
ぐったりと崩れていくリュカの体をアルベールが抱き留めてくれ、そのまま二人ソファーに横たわる。つながりも解かぬまま荒い呼吸を整えながら互いの心音に耳を澄ませていると、本当に溶け合っているように思えた。
「辛くないか、リュカ」
「へいき、です……ただもう少し、こうしていてもいいですか?」
「ああ、構わないが……」
「なんだかあまりに幸せで、夢みたいで……」
いま早々に繋がりを解いて体を放してしまったら、また離れ離れになってしまう気がして怖い。だからいまはせめてアルベールの心音に耳を澄ませて安心していたかった。
そっとアルベールの裸の胸に耳を寄せていると、やさしく抱きしめられる。更なるぬくもりを感じられたリュカは、それだけでまた視界を潤ませてしまう。
「これは、夢なのでしょうか。いま私は後宮の牢にいて、これはそこで見ている夢なのかでしょうか」
「そうじゃない、リュカ。俺の心音が聞こえ、体温を感じるだろう? 夢ではない、現実だ」
アルベールの言葉が甘く痺れる体に染み入り、それが涙腺を刺激していく。瞬くたびにこぼれ落ちていく雫が、リュカの頬からアルベールの胸元へこぼれ落ちていく。
「この先にどんなことが待ち受けていようとも、アルベール様と共にあれるのであれば、何も怖くありません」
流れていく涙を見つめながら静かに心を決めると、「そうだな。俺もだ」と、アルベールもうなずいてくれる。それが何よりの答えだと言えた。
「どこに行こうとも、どんな明日が待ち受けていようとも、俺はあなたを放すつもりはない。共にあろう、リュカ」
アルベールの言葉に答えるようにリュカが口付けると、そのまま再び深く二人は絡み合っていく。そうしてまた、二つの熱は溶け合うように重なり合っていくのだった。
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