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5章(6)

「ノア。好き嫌いはあるか?」 「好き嫌い…? パッと思い浮かぶものは、ない…かな」 「こちらへ」 呼ばれて、何の疑いも持つことなくアルフレッドのもとに近寄る。 「ん…っ?」 何か言われることもなく、唇に冷んやりとした、弾力のあるものを押し付けられて、思わず声をあげる。 押し当てられた反動で、微量な水が滴りノアの顎を濡らしていく。見ていたアルフレッドが、何かを持つ反対の手の指腹で水滴を拭ってやり、ノアが口を開くのを待っていた。 「食べてごらん」 言われるがままに、ノアは疑わず口を開いて、甘い香りが漂うオレンジ色の弾力ある欠片を食べる。 噛んだ瞬間に、たっぷりと果汁が滲み出て口内を満たし、酸味の少ない濃厚な甘味が広がっていくのが分かった。一口食べただけで美味しいものだと感じるそれの正体が分からず、ノアは瞳を丸くさせながらアルフレッドを見上げる。 「これ……ン、甘い…」 「マンゴーだ。甘くて美味しいだろう」 「マンゴー…?」 「熱帯地域でよく育つ。お前の村は寒暖差がないからな、見たことがないだろう」 「初めて食べた…美味しい」 今まで食べたことのなかった果物の味は、お世辞でも何でもなく甘くて美味しくて、感動してしまった。 瞳を輝かせ、アルフレッドを見上げる。 そんな眼差しを受けたアルフレッドに頰を撫でられながら、口の中で溶けて残った甘味を堪能する。 「隣国に出向いたついでに、有名な市場に寄って果実をもらい受けた。お前が食べると良い」 「果物…?」 「友好関係を結ぶために物を献上される、よくあることだ」 並べられた器の中をよくよく見てみると、確かに多くの果物が並べられていた。どれも食べやすいように一口サイズに切り分けられている。見慣れたものから、見たことのないものまで、瑞々しく光を受けて輝く果物がガラスの上で美しく飾られていた。 メロンなどはそのまま置かれており、ノアが今まで見た中で最も美しい形をしているのに惹かれてしまう。しっかりとした大きさもあるのに、綺麗な円形をしているから育て方が気になるのは、これまでの習慣のせいだろう。 「凄い、こんな…綺麗…大きいし、こんな育つんだ」 村でも、家のすぐ目の前にある畑でたくさんの作物を育てていた。両親をよく手伝っていた。 全く苦じゃなかった。 初めて触るものも、慣れたものも、ちょっと不出来なものでも、時間をかけて育てるのは楽しかった。両親や村の人と過ごす時間が、楽しかった。 たまに、腰が痛いと悩む少し離れた家に住む老夫婦の畑仕事も手伝いに行っていた。そのたびに、彼らはお礼と言って収穫した果物や野菜をノアに持たせてくれた。 だからノアには目の前にある果物の数々が、誰かの努力で育ったものなのだとよくわかった。凄いと思った。 素直な感想を言葉にしてから、横からじっと見つめられていたことに気がつく。 「な、なに…?」 「いや。お前の顔を見るのは久し振りだと思ってな」 「だって」 「国の外に出る前は寝顔ばかり見ていたから」 「な…っ、声かけて!」 「起こすほどのものじゃない。どうせすぐ王宮に戻る羽目になるんだ、起こしてどうする」 「でも」 知らなかった事実を今言われて、なおも言い募ろうとするノアだったが、アルフレッドの指先が唇に押し当てられて黙ってしまう。 「ん…ッ」 困ったように、助けを求めるような瞳でアルフレッドを見つめるものの、彼の悪戯な手は止まらなかった。 小さく真っ赤な実は苺だ。 ひとつ摘んだそれを唇に押し付けられるが、すぐにアルフレッドの手によって形が崩されてしまった。 「あっ、もったいない…」 思わず呟いてしまう。 苺を潰したアルフレッドの指先には、果汁がしたたっている。 「ふ……っ、ぅ…」 アルフレッドの指がなぞり、唇に赤い汁が塗られる。 絶妙な力加減の指に撫でられたされたせいで、妙な気持ちになってしまう。 果汁によって、赤く彩られたノアの唇は普段よりも瑞々しく艶めいていた。雰囲気に呑まれていることに気がついて、ノアは慌ててアルフレッドの手を両手で掴み、どうにか動きを制しながら声をあげる。 「じ、自分で食べる!」 「疲れているんだ、少しは空気を読め」 「だから、疲れてるんだったら、僕自分で…っ」 「考えがまだまだ幼いな。疲れているから食べさせたいんだろう」 「ふ、ん…っ」 唇や頬をくすぐるような力加減で触られ、変な声を出してしまった。 首から鎖骨のあたりにまで垂れていく果汁が勿体なくて、唇の端だけを舌で舐めとる。 「あっ…!」 いきなり身体をいとも簡単に抱き上げられて、ノアは不安定な体勢のままほんの少し暴れる。アルフレッドはもう片手で果物が多く収まった陶器の器も持っており、一つ二つと小さな実が床に落ちるのを見ていた。ぞんざいな扱いに非難の声をあげる。 「に、荷物みたいに…っ」 「お前の身体は抱え上げやすい」 そのまま寝台の縁に腰掛けたアルフレッドの脚の上に座らされ、後ろから抱きこまれた。果物が積まれた器を手の届く範囲にまで引き寄せるのが見えた。果物の芳醇な香り以外にも、甘さが強く漂っているのは、食べやすいようにと使用人がミルクやクリームを添えてくれてくれたからだ。 アルフレッドに片手で顎を掴まれて、そのまま強引に上向くように持ち上げられる。 「う、」 見上げれば、至近距離に整ったアルフレッドの顔がある。 心臓に悪いその距離に、ノアは頬を赤くさせて狼狽えたような声をあげてしまった。背中はアルフレッドの身体と密着してしまっているし、逃げ場が一切なくて困ってしまう。 「口を開けるんだ」 「ふあ…」 言われた通りに、素直に口を開けばすぐに、アルフレッドの長い指が摘んだ苺が入り込んでくる。その綺麗な指を少し噛んでしまい、咄嗟に力を緩めるがアルフレッドに気にした様子は見られなかった。 「ん、んう…ふっ…」 ノアが食べたことのない果物の欠片を口内に放り込まれては、舌の上で潰される。中にはミルクを纏わせた実を含まされて、綺麗に食べようと思ってもできなかった。 与えられる果物は全て美味しかった。 濃厚な甘みは何度味わっても飽きがこないもので、ミルクを纏ったアルフレッドの指にまで舌を這わせてしまい、慌てて引っ込める。 「う、ン…っ」 「……お前は、本当に無防備だな」 「く、ぅん……ッ、ふ、あ…っ」 舌の上に、ひんやりと冷えた大粒の苺が乗せられた。 すぐ真上から降りたアルフレッドの声は、少し低かった。 「口の中に、おかしなものでも放り込まれたらどうするつもりだ?」 「ん…ッ」 「世の中の男は恐ろしいぞ、特にろくでもないアルファはな。気に入ったオメガを手に入れるために、薬漬けにすることもある」 舌に押し付けられ、真っ赤な実を潰される。 ミルクも纏った苺は原型を崩し、アルフレッドの指にも、自分の唇の端にも果汁が滴っていく。 自分で果物を口の中に入れてきては食べさせてきているというのに、急にそんなことを言われてノアは少しばかり怖くなってしまった。 小さく震えた身体を抱きしめられる。 上擦った声をあげながら、反射的に唇を閉じようとしたノアをアルフレッドが宥めた。 「あっ、ぁ、ふ……ッ」 「そんなことはしない、大丈夫だ」 「んぁ…」 涙がじんわりと浮かぶ目尻に軽く口付けられて、口の中で混ぜられぐちゃぐちゃになった果実とクリームを飲み込んでしまう。温くて甘ったるい味が喉を通り落ちていった。こく、と喉が上下するのを見ていたアルフレッドが、果汁やミルクに塗れた指をノアの目の前にかざし、耳元で艶っぽく囁く。 「……舐めて」 吐息が耳朶を掠めて、思わず身体を跳ねさせてしまった。 「ん、ん…ぁ、んう…っ」 指で唇をなぞられ、僅かに開いた隙間から入れられる。関節のあたりまで入り込んできた指が口内の濡れた粘膜を撫でて、舌に絡ませてきた。 「よご、れ…ひゃ、んん…ッ」 唇の端から垂れる唾液と果汁が気になるものの、動きが制限されているせいで自分で拭い取ることもできない。舐めて飲み込もうとしている間にも、アルフレッドは果物を無駄にするかのように、ノアの身体のいたるところに潰した果実を塗りつけてきた。 「んっ……」 着ていた薄手の寝衣もどんどん乱されていく。 舐めるという行為に羞恥心が伴い、なかなかアルフレッドの言う通りにはできない。 息が上がり、どうにか口を閉じようとするものの指を噛むわけにもいかず、そのまま口内を弄られていた。 「ちゃんと飲み干せ」 「や…でき、な……」 「綺麗にしてごらん」 「ふうぅ、ん…っ」 アルフレッドの指に舌を這わせ、懸命に果汁やミルクを舐めとっていく。 指先まで綺麗な形や色をしたアルフレッドの指に舌を這わせているうちに、鼻から抜けるような声で喘いだ。 「ぁ、ふ…んンっ、ん…」 熱く湿った息を吐きながら、アルフレッドの指を舐める。 舌の上を撫でられては小さな声をあげ、夢中になってその甘みを啜っていた。 「ん、…ふ、う……」 「良い子だ」 上目遣いにアルフレッドの様子を伺うと、頭を撫でられる。 魅惑的な笑みを返され、良いことをしたかのように低く囁かれて、思わず色づいた吐息を漏らしてしまった。誰をも魅了できる笑みと声だ。

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