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6章(13)
勲章を授けた父王は満足げに頷く。
その光景を目の当たりにする人々の間では、第七皇子に対する異なる評価が囁きの中で飛び交い始めた。謁見の間はいくつかの温度に分かれる。
「最前線で泥に塗れて戦うなど…皇子の品格を疑う。遺体まで自ら運ぶなど」
「野蛮なお方だ。あのような武勲の上げ方は、他派閥への当てつけに過ぎん」
皇帝の言葉を聞きながら眉を寄せる者が多かったのが貴族たちである。
戦いの前線に立つ皇子というだけでも彼らにとっては理解の外にあるものが、此度の武勲として読み上げられた内容にはそれ以上のものが含まれていた。名として残る戦線でも、宝が眠る土地でもなく、名も知れぬ山中で魔獣を焼き、そして、兵の亡骸を四人分、皇子が自ら運んで帰って来たのだ。
最も高貴な立場にあるはずの王族がそれをやる。屍を担ぐのは、名を持たぬ者にやらせるべきだというのに、誉として形が残っている。階級の順序が守られない不快さを露わにしていた。
「自ら指揮を執り、完璧な勝利を手にする。手札としては最高だ。辺境のオメガなどではなく、私をその隣に据えれば、この国は容易くすら手に入るはずだというのに」
純白の礼装の青年が、口元を扇で半分ほど隠しながら独り言のように呟いた言葉を、近くにいた何人かが聞いていた。エドガーは戦術の一つとして、聞かれることを承知で口にしていたのだ。国境というものはなくならない。焦らず、次に売り込むものを順序立てて決めて行けばいい。そう思ったエドガーは綺麗な笑みを口元に浮かべていた。
アレンは、祭壇から離れた後方でアルフレッドの姿を、そして周囲の様子を見ていた。
「他の王族や貴族どもを見ろ。前線を視察しに来ては、部下を捨て駒のように扱い、戦場のオメガや女を慰み者にして恥じ入らん」
周囲にいるのは同じ軍人、高官たちだ。彼らの礼服の胸元は、それぞれの所属を示す徽章で飾られている。軍籍を持つ者の徽章が、貴族の儀礼章よりも明らかに多い場所だった。
彼らは唯一、この謁見の間の中で、数字の意味が分かる立場の者たちだ。
三週間の魔獣掃討。先行していた部隊にアルフレッドが指揮官として入り、以降はアルドヘイム軍の損耗がない。命を落とした四名は、いずれもアルフレッドが現地入りする前に、汚染魔石に命を奪われた者たちだった。その犠牲者の少なさがどれほど異常なものなのかは、武器を手にしたことのない人間には伝わらない。
「アルフレッド殿下は違う。殿下は常に我々の先頭に立ち、理不尽な蹂躙を許さない。我々が命を預けられるのは、殿下だけだ」
声を潜めた男の言葉に、周りの軍人たちが小さく頷く。アルフレッドが、戦場で捕虜のオメガや女を蹂躙しないことは、軍に所属する人間なら誰もが知っている。そして本人はそれを正義として何か理由を語ることは一度もない。ただ自らの目の前でそれがされれば言葉で止める。そういう皇子だった。
しかし、彼らの空気を大きく変えたのは、数字よりもその後の事実だった。
「……あの方は、死んでも置き去りにはしない」
──魔石より先に、亡骸を運んだ。
魔石であれば、まだ扱える魔術師も多い。しかし、汚染魔石となると性質が打って変わる。
そのため、任務として出向く際には汚染魔石の傍には近づいてはいけないと言われている。しかし、調査が進んでいない段階ではその位置がわからず、先遣隊は命を落とす。汚染魔石の目の前で。そのため、そこで死んだ者はほとんど国へ連れて帰ることができないのだ。
そして任務のため順序も決められている。汚染魔石を回収してから、その後に遺体を回収。汚染魔石を回収したという功績は、国に持ち帰れば輝かしいものであり、遺体の回収は何の功績にもならない。だから確実な方から回収するのが当たり前だった。
しかし、あの人はそれを逆にした。
汚染魔石を扱えるのはわずか数人だと言う。第二皇子シュヴァルツ、第八皇子ユリウス、そして第七皇子アルフレッド。
しかし、戦線に立つのはアルフレッドのみである。実質、扱える人はただひとりだった。
それを自覚したうえで、彼はまず犠牲になった四人の兵を連れ出したのだ。遺体の保護と、現場の撤収を指示した先で、ただ一人現場に戻り、汚染魔石を取り出した。
全員が、隣に立つ者の呼吸が不規則に深くなるのを感じ取っていた。
「──アルフレッド殿下こそ、」
言いかけた言葉は最後まで紡がれなかった。この場で完結させるには、不敬になるものだからだ。
軍人たちの熱い羨望の眼差しは変わらずアルフレッドの背中へと注がれている。
第七皇子の騎士としてその場に立っていたアレンは、その眼差しの数を無意識に数えていた。数えてはならないものだったが、数えていた。そしてその数を、どこにも報告としてあげないことを決めた。
皇帝が玉座に戻る時には、既にアルフレッドは再び跪いていた。
誰もが見ていたというのに、いつ跪いたのかを感じさせない動きだった。ただ、瞬きをした次の瞬間には、再び膝をついていた。
その流麗さを口にすることなく、皇帝は言葉を続ける。
「──この後は、双璧の儀であったな」
その一言で、謁見の間の中の喧騒が強くなったようだった。
正確には、誰も大声をあげることも、拍手をすることも、何もしていない。ただ場がうるさくなったのだ。
「勅を出したのは余だ…忘れてはおらぬ。そなたがとうとう、その隣に並べるべき者を見つけたと報告を受けたからな」
声には期待の色が乗せられている。
息子の婚礼を喜ぶものではなく、幕が上がるのを待つ興行主の温度だった。
「長きにわたるアルドヘイムの伝統だ。その者を余の前に連れてまいれ…楽しみにしている」
アルフレッドは完璧な礼を尽くし、表情を崩さなかった。
「は。これ以上の栄誉はございません」
高い天井が、余分な感情を乗せない、しかし無感情には聞こえない完璧な皇子の温度を保った声を一度だけ返す。
返ってきた声が消えるまでの間、謁見の間にいる全員が、この第七皇子が連れて来る番の姿を思い描いていた。
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