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6章(27)
来た時同様に哨所で兵と言葉を交わしながら退出の記録を残し、来た時にも使った階段を一段ずつ規則正しい速度で上がっていく。
階段の途中で燭台の火が途切れる場所があり、そこを通る時に彼の足音が石に覆われた空間に反響した。自分の足音にも呼吸にも耳を傾けず、今夜並べていくべき手順だけが頭の中に集まってくる。
王族専用通路の警備配置、王宮と軍務省の対応、マルコの処分、ガストの処遇、大元の動き……ノアの様子の確認。
最後の一つだけが、やはり順序から外れているようだった。他の五つとは違う所から来る。他のものは全て処理すべきものだというのに、最後の一つは別の何かだった。何が違うのかを明確に言葉にはしないまま、ただ静かに置いていた。
階段の終わりが近づいてきてもアルフレッドは息一つ乱さずにいた。
上に出れば、まだ半分も片付いていない夜が待っている。
階段を上りきった先の廊下には人の影も息遣いもなかった。
深夜の照明の数まで落とされた北東棟の廊下は静まり返っており、月の光がよく見える。燭台の炎と炎の間の闇は短く狭められており、通り過ぎるたびに軍礼服の膝の染みが姿を現したり消したりを繰り返した。
少し歩いた所でアルフレッドは足を止めた。周りを見渡すのでも身を潜ませるのでもなく、礼服の内側から小さな金属を取り出す。
軍の意匠も王宮の紋も何も刻まれていない。この世にはあと一つしか存在しない物だった。
手に持ったそれに己の魔力を通せば、月が地面を照らす光のように細い道筋がこの夜闇の中を抜けていく。遠く、それでいてこちらに近づきつつある存在のもとへと、細い糸を繋げ、手繰り寄せる。
繋がるまでには、三つ数えるほどかかった。
『──どこまでだ』
開口一番がその言葉だった。この線を使う限り自分以外の魔力は通さず、相手の確認は意味を為さない。通せる人間は自分たちだけだった。
声の後ろでは外の風の音が聞こえる。そよ風ではなく、風を切る音だ。その音を聞きながらまだ馬上であるらしいことを知る。
何かあったのかも聞かない。
この端末が使われたということ自体が、予定の外で何かが起きたのだということが二人の間では決まっている。聞くべきは、いつどこにどう立つのかだった。
「ノアが襲われた」
そこで風の音が小さくなるのがわかった。馬を止めたのだ。
「右肩を脱臼させられたが命に別状はない。……賊はアシュレイの手の者で複数いる。主犯は王宮地下牢に入れてある」
『……そうか』
「俺は離宮に戻る」
王宮には後処理が残っている。数えきれないほど、半分も片付いていないものがあった。各所からの報告、守衛の再配置、記録の整理、皇帝への報告、明日以降の準備。そして、夜明けまでは南西区画に立たなければならない。それが今宵の警備責任者の義務である。
『何時に着けばいい』
「夜半までに」
『わかった』
説明の言葉はどこにも一つも転がっていない。
アルフレッドは黒い金属を内側へと戻し、歩き出す。そこにはもう声も風の音もない、北東棟の廊下だけが続いていた。
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