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スランプ02
ドレスを作ろう。そう思うのは簡単だった。だけどその後が大変だった。普通の洋服をデザインできない僕がドレスをデザインできるはずがない。普通の洋服は、流行りを知っていればなんとかデザインできる。でも、今の僕はその洋服さえもつまらないものしかデザインできなかった。なのに、無の状態からドレスをデザインするのなんて今の僕にはハードルが高かった。
普通の洋服は、街を歩いてたくさんのブランドを見て回った。でも、今、ドレスを置いている店なんてウエディングドレスを扱っている店くらいだろう。19世紀の頃はドレスが普段着だった。けれど今は違う。そうしたらどこでドレスを見れるだろうか。そう考えて僕はドレスが展示されているミュージアムに行くことにした。服飾資料が中心のミュージアムがあり、そこにはドレスも展示されている。学生時代に足繁く通った場所だ。何着か飾っているだけだけれど、ひらめきがくることはある。全くの無から生み出すことは今の僕にはできない。それならなにかを見て、インスピレーションを得るしかない。
ミュージアムへ足を運んだのは、ドレスを作ろうと思った翌日だった。その日はお天気が良くて、冬にしては暖かかったので外を歩くにはぴったりだった。今はアトリエの関係で少し離れたところに引っ越してしまったけれど、学生の頃はその街に住んでいた。件のミュージアムはもちろんだけど、歴史を感じさせる建物が多くて、ドレスを纏った貴婦人たちがそこを歩いているのが頭に浮かぶからと思っていたものだ。実際、インスピレーションを得られることは多かった。でもブランドと契約するようになってからは、普段着る洋服をデザインするから、そのミュージアムに行くことはなくなってしまった。普段の仕事で行き詰まっても必要なのは流行りなので、それさえ抑えていれば良かった。だからそのミュージアムへ行く必要がなくなってしまったのだ。仕事ではなく、自分のために服をデザインしようと思ったのは学生のとき以来だ。昔は、無から作り出すのは大変だけど楽しかったものだ。だけど今回はどうだろう。普通の洋服さえデザインできなくなった僕がドレスを作ろうなんて無謀かもしれない。それでも自分がデザイナーを目指した原点であるドレスを作ろうと思うのは今の僕には必要なことだと思えた。
ミュージアムに着くと僕は、まっすぐにドレスの展示コーナーへと行く。そこにはドレスに目を輝かせた女性たちがいた。ドレスを試着し、写真を撮ることもできるそこは週末にはもっと人が訪れる。今も昔も女性はおしゃれに敏感で、今の女性にとってドレスとは結婚式のときに着るだけの普段着からは程遠いものになってしまったけれど、女性の心は掴んでいるのだろう。それが証拠に平日の昼だというのに人がいるのだから。
ドレスのコーナーにはバッスルスタイルのドレスもあった。袖は五分袖でレースとリボンがあしらわれている。そしてスカート部はウエストの左右には袖と同じリボンが。そしてバックにはフリル。そしてフリルの下にはレース。そしてレースの下には大きなリボンをあしらい、リボンの結び目には花があしらわれていて、その下はまたレースになっている。そして裾は引きずるようにトレーンが長かった。リボンとレースをふんだんに使ったドレスだった。若かりし頃の僕が目指したようなドレスだ。ドレスを着る時代ではなくなった今でも、リボンとレースは女性の心を掴んで離さない。だから、そんなリボンとレースをふんだんに使ったドレスは僕の好みと言えた。
トレーンの長さは身分の象徴ともされていて、裾が長ければ長いほど、高い位の女性だとみなされていたという。このドレスのトレーンはそこそこ長いので、貴族でも上位になるだろうことがわかった。今の時代は貴族制度もないから、トレーンの長さは関係ないだろう。それでも裾の引きずりは長い方が女性の好みかもしれない。そんなことを考えながらドレスをじっくりとみる。
とにかくドレスを見た。男の僕がドレスをじっと見ているのは異質なんだろうか。女性の視線をチラチラと感じたが、今の僕にはそんなことに構っている暇はなかった。今はとにかくスランプを脱出することが必要なんだ。そのためには僕がデザイナーを目指すきっかけとなったドレスを作るんだ。その思いでいっぱいだった。
ドレスを見たあとは自宅に戻ってスケッチブックを開く。開いてドレスを描こうとするけれど、そこには今日見てきたドレスに酷似したものがあるだけ。自分のドレスではない。それでも諦めずに何枚も描いた。これを作りたい!と思ったバッスルドレスは3日後に描きあがった。色はメインが白で差し色は紫がかったピンク。スカートの前は4段にわけ、1段目の下には薔薇の花で囲み、バッスルの特徴である後ろ姿は、後ろも正面とは違うけれど、やはり4段に分かれ、レースとリボンと薔薇であしらい、腰には蝶が2段の大きなリボン。トレーンは長く。このドレスの特徴は薔薇だ。1段目、2段目、3段目、4段目の裾はずらりと薔薇の花が並んでついている。袖は五分袖。ドレスのデザインはできた。後は資材を買いに行くだけだ。
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