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スランプ03

 とりあえず満足のいくドレスのデザインを終えた僕は、翌日、繊維問屋街へと足を向けた。ここに来るのはどれくらいぶりだろう。かなり久しぶりだ。今はネットでも繊維問屋から購入することができるけれど、世界でたった一着のドレスを作るのなら生地にもこだわりたい。そう思って問屋街へと訪れた。そこは服飾資材の問屋街で、90店を超えると言われる店が多数あるけれど、店によってそれぞれ個性がある。タイシルクの専門店。レースの専門店。型紙の専門店。ファスナーやボタンなどの小物の専門店。革専門店。そんな専門店がたくさんあるので、全ての店で欲しいものが扱っているわけではない。今回、ドレスを作るにあたり必要なものはドレスに向いた生地とレース、そしてファスナーだろうか。ファスナーも色や長さなど色々あるので、ファスナーならなんでもいいというわけではない。まずは当たり障りのないファスナー、そしてドレス向きの生地とレース生地と飾り用のレース。そんなところだろうか。ドレスの生地は、デザインを描いているときに、ある程度、こんな色でというのがあるけれど、実際に生地を見てみないと細かい色使いはわからないので、まずはお店で見てみたいと思う。  学生の頃から何度となく足を運んでいるので、大体、どこにいけばドレスを作る素材が売っているかわかっている。まずは裏地となるサテンとレース生地だ。小物である薔薇は後で考えるとして土台となるドレスができなければ意味がない。そして生地としてサテンとレース生地と一言で言っているが、サテンと言っても多種多様なサテン地があるし、シルクもある。そしてレース生地と言ってもたくさんある。ただし、現代で作ると言ってもポリエステルなどはできるだけ使いたくない。価格は高くなってしまうけれど、できるだけ19世紀に使われていたような生地で作りたい。と言ってもどこに出すわけでもないから、ポリエステルなど現代的なものも完全に排除することはできないかもしれない。  そんなことを考えながら、まずは裏地と表でも使うサテン生地を見ていく。サテン生地は幅広く使われる生地だけれど、意外と扱っている店は少ない。なので記憶を頼りに店へと行く。裏地となるサテン生地はそこまでこだわりを見せないので、早くに見つかったけれど、表に使うサテン生地とレース生地はなかなか見つからない。レース専門の店に行ってもピンとくるものはなかった。そしてサテン地。サテンと一口に言っても色々なサテン地がある。だから、それをひとつひとつ見ていくのは時間もかかる。けれど、妥協はできないから、これだ! と思うものを探すのだけどなかなか難しい。生地自体を気に入っても色がなければ意味がない。  とりあえず裏地のサテンを購入したあとは表で使うサテン生地を探して歩く。それでもなかなか見つからない。元々、ドレス制作に向いている生地を扱っているお店が少ない。その中をひとつひとつ丁寧に見ていくから時間もかかる。生地を探して歩いていると、学生時代にお世話になった問屋の店主と話しをしながら、こんな生地はないか、と尋ねるけれど、店主のおすすめの生地を見てもイメージとあわなかったりで、これと言ったものは見つからない。どれも妥協が必要だった。どの店にもなかったら妥協するのも仕方がないか、と思って最後の1店へと向かった。  そこは問屋の中でも奥まっていて、それでもドレス作成にもぴったりな生地を扱っている店で、僕の本命とも言える店だ。店に足を踏み入れると、いつもの店主がいなかった。代わりにいたのは僕よりも年下と見える若い男性だった。店主は体調でも壊しているんだろうか。ここでも店主と話しをしながら生地を探そうと思っていたので、どうしようか迷った。 「店主はお休みですか?」  僕がそう尋ねると、若い男は首を振った。 「以前の店主をご存知ですか。少し前に私が継ぎました」  そうか。店主が変わったのか。以前の店主は年齢というのもあり、生地の生き字引とも言える存在だった。だからここに賭けていたのもある。でも、それができないとなると、ほんとに生地を一枚一枚見ていくしかない。 「今日はどのような物をお探しですか?」 「ドレスを作るので、そのドレスにあったものを。ドレスはバッスルドレスになります」 「裏地用のサテンはこの辺のサテンがおすすめです」 「裏地用はもう買ったので、表に使う物が欲しいんです」 「表に合うサテンはこの辺ですね。最近入ったのがこの生地です」  そう言って見せてくれたのは安っぽくならない程度の煌めきがあった。なかなかいい生地だった。それでも、なんだかピンとこなかった。 「もっと赤みと青みが強くて安っぽくならない煌めきのあるピンクのサテンはないですか?」 「うーん。だとするとこのピンクはどうですか?」 「生地はいいけど、もう少し赤みが欲しいですね」  そんな感じで表地に使うピンクのサテンを探すけれど、これだというのが見当たらない。せっかくドレスを作ろうと思ったのに生地が見当たらないのではどうしようもない。ドレス制作を諦めるしかないのだろうか。そう落胆していると、若い店主が言った。 「一週間ください。そうしたら、あなたの希望にあった生地を揃えますから」  そう断言するので、無下にすることもできないのでとりあえずお願いすることにする。それでも期待はしていなかった。

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