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スランプ04
一週間くれと言われたけれど、正直期待はしていなかった。だから、もうドレスは作れないと諦めてもいた。それでも一週間後に足を運んでしまったのは、どこか期待していたのだろうか。それともドレス作りを諦めたくなかったのだろうか。どちらにしてもあの店に足を運んでしまった。
僕の顔を見た若い店主は「お待ちしてました」と少し緊張した表情で言った。彼も、僕が来るのか不安だったんだろうし、また来ても気に入るかはわからないという不安もあったのだろう。
「ちょっとお待ちください」
そう言うと一度裏に消えて、生地を持って戻ってきた。恐らく、僕が来るまで売れないように裏に置いておいてくれたのだろう。そこまでしてくれた生地を気に入ればいいけれど。
「こちらです」
そう言って見せてくれたのは青みの強い濃い、それでも品のあるピンクの質の良いサテン生地。サテンのピンクの色は僕が望んでいた色だった。これくらいの濃いピンクが欲しかった。
「レース生地は迷いましたが、これはと思うものを用意してみましたご覧になりますか?」
「見せてください」
この若い男がどんなものを仕入れたのか見てみたいと思い、見るだけ見させて貰うことにした。店主はまた裏に消えてレースを抱えて出てきた。
「これです」
そこにあるレース生地は安っぽくなく、上品な花模様のレース生地だった。
「これは綺麗だ」
「使える感じですか?」
「作ってみないとわかりませんが、恐らくフリルのところに使えるかと。一週間でこんなに希望の物が手に入るなんて、正直あまり期待してませんでした。でも、どうやって?」
「大したことはしてません。ただ、こんなものではないかと思うものを取り寄せただけです」
そう謙遜するけれど、その取り寄せるのだってこちらの希望をしっかり把握していないと無駄になってしまうだけだ。
「この3点をください」
白のサテン。ピンクのサテン。レース生地。
「かしこまりました。生地はそれほどの長さを用意できていないので、残りはまた取り寄せておきます」
「お願いします。コサージュをたくさん作るので、このピンクの生地はたくさん必要になるので。それと白のサテン生地はこのピンクの生地よりも多めに欲しい」
そう。メインとなるレース生地の下に白いサテンも使うので、ピンクのサテンよりも長さが必要になる。
「かしこまりました」
とりあえずあるだけの生地を貰うことにした。白のサテン生地は店の在庫を切らせてしまうかもしれないけれど、こちらも必要なので仕方がない。しかし、結構な量になってしまった。期待していなかったから台車を用意してこなかった。台車は折りたたみの小型の台車を学生の頃に購入していて、アトリエにはあるのだけれど、期待していなかったから持ってこなかったのだ。さて、どうしたものか、と考えていると店主が先回りして言う。
「お車まで台車でお運びしますよ」
「いや、それは申し訳ない。台車だけお借りできますか」
「もちろんです」
すると店の奥から台車を持って現れた。確かに生地は重いから仕入れのときに台車は必要になるのだろう。それを貸してくれるというのは助かる。
店主が持ってきた台車にあるだけの生地を乗せていく。全部乗せきったところで車まで台車を押して行く。それにしても一週間でよくここまで僕の希望の生地を集めたな、と関心する。僕が説明しただけのものをきちんと把握し、それをもとに集めるのなんて大変だっただろう。僕は頭の中にあるイメージをなんとかわかって貰おうと説明するけれど、その頭の中を覗いて貰うわけではないから、仕入れるのだって大変だったに違いない。それを一週間でやってのけたのだから、歳は若いけれど、頼りになる存在だと思った。これからはここで買うことが増えるかもしれない。そう思いながら台車から車に詰め込んだ。これでも結構な量があるけれど、ドレスとなるとまだまだ足りないのだ。ドレスが出来上がるまで何回か通う必要があるな。
台車を戻しに店に戻ると店主は笑顔で待っていた。
「台車、ありがとうございました」
「いいえ。ご自宅の方は大丈夫ですか?」
「はい。小型の台車を持っているので」
「そうですか。それなら良かった」
「店にあるだけのものを一気に申し訳ありませんでした」
「いいえ、大丈夫ですよ。また仕入れればいいだけですから」
「僕の分もお願いします。白とピンクのサテンはかなり使うので」
「もちろんご用意します。他にも必要となるものがあったらおっしゃってください。ご用意しますので。あ、これ。私の名刺です」
そう言って名刺を受け取った。そこにはシンプルに名前が書かれていた。
ーAomi屋 青海淳 Jun Aomi
そして僕も財布から名刺を取り出す。いつ必要になるかわからないので、いつも数枚は持ち歩くようにしている。今日はそれが役立った。
「吉澤、優馬さん。素敵なお名前ですね。今後とも当店をよろしくお願いします」
「いいえ。こちらこそよろしくお願いします」
「とりあえず、本日お買い上げいただいた生地とレース生地はもう少し用意しておきます。一度にお運びになりますか?」
「いや、何回かにわけていただいて結構です。僕の分だけ取り分けておいていただければ」
「かしこまりました。ではとりあえずもう少しご用意しますので、ご用意ができましたらご連絡します。お電話がいいですか?」
「いや。作っているときは音で集中力が途切れてしまうので、メッセージアプリでお願いします」
「かしこまりました。では、用意ができ次第、ご連絡いたします」
「お願いします」
そう言って僕は店を後にした。
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