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ドレス01
理想の色のピンクのサテン生地を探して貰い、レースも探して貰ってから僕は2代目店主・淳さんを信頼するようになった。いつもなら他の店にも足を伸ばして生地を探していたけれど、淳さんに任せればいいものを探してくれる。だからAomi屋さんだけに通うようになった。足りなくなったピンクと白のサテン地。そしてコサージュに使うグリーンのサテン地。とにかく頭の中にあるデザインを形にするには様々なものが必要になる。決して生地だけではないのだ。最初は生地を取りに行くだけ。けれど、気がつけばそれだけでなくなっていた。
「こんにちは」
店の中に入って声をかけると。店の奥で段ボールをバラしていた淳さんが顔をあげた。結構な数の段ボールをバラしたのだろうか、額には汗をかいている。
「あ。お疲れ様です」
そう言って少しぎこちないながらに笑顔を見せてくれるようになった。
「ちょっと座っててください。お茶入れてきます」
淳さんはそう言って店の奥へと消える。今では店内でお茶を飲みながらドレスのことを話したり、生地のことを話したりしている。そんな些細な時間が気分転換になっている。アトリエでは1人だから、週に1度ここに来て話しをするのが楽しみになっている。
「お待たせしました。どうぞ」
寒い季節にぴったりの温かいほうじ茶だった。
「生地は足りてますか?」
「白が少し足りないですね。後はグリーンを少し。それとコンシールファスナーを。手元にあるのが普通のファスナーで少し興ざめしてしまったので」
「あぁ、ドレスですもんね。長さはどれくらいですか?」
「60センチくらいかな?」
「じゃあこっちですね」
そう言って淳さんは迷いなく棚へと行き、引き出しを持ってくる。
「色は白ですかね」
「そうですね」
「じゃあこれかな? あのサテンの生地に一番色が近いでしょう」
「ええ。しかし、すごいな」
「なにがです?」
「場所を全部覚えてるんだ」
生地だけでも色々あり、それだけでも分けている。そして小物に関しては棚の引き出しにそれぞれしまっている。まさしく店中、色々なものであふれているんだ。それを覚えているなんてすごいと思ったんだ。
「商売ですから」
さらりと言うけれど、簡単なことじゃない。デザイン画なら何百枚でも頭に入るけれど、こういうのはからきしだ。
「ただ、レースが見つからないのが申し訳ないです。色々な工場のを見ているんだけど、デザインがいいと色が若干違う。色が合うと、今度はデザインが違う。どうもこれ! というのが見つからない」
「また見せて貰ってもいいですか?」
「もちろん」
最初にレースを買ってから、こんなレースをとイメージを言って探して貰っているんだけど、イメージに合うものがなかなか見つかっていない。
「今回仕入れたのはこれです」
そこにあったレースは花柄ではあるけれど、僕の探している薔薇ではないし、レースの幅が狭い。
「薔薇じゃないからダメですよね」
「薔薇でなくてもピンとくればいいんだけど、確かにこれは違うかな?」
「ですよね。工場、あと数ヶ所あるので、また探してみます」
「お手数おかけします」
そうして今日の分の会計をしようとしたところで、会計の傍にボタン箱があるのを見つけた。
「これ、見ても?」
「もちろん。どうぞ。デッドストックです」
箱を開けると、木製、真鍮、ガラス、貝。色も形もバラバラだ。
「おもしろい……」
「昔の在庫なんですよ」
「こんなの残してあるんだ」
「捨てられなかったみたいです、親父」
そう言われて、人の良さそうな穏やかな顔をした先代の顔を思い出す。そうか。こんなのを残していたんだ。
ひとつ手に取ってみる。今では作れなさそうな繊細なガラス細工。透明な色が綺麗だった。
「これ、使えるかな?」
「どうでしょう。胴の前になら使えるんじゃないでしょうか。飾りとして。ちょうど複数あるし。でも、好きそうですね、そういうの」
「わかる?」
「はい。何度かお話しているし、お買い上げになったものと照らし合わせると、そういうの好きそうだなって。新品より、少し歴史がかっているもの、お好きですよね?」
言われてみればそうだ。ヴィンテージレースが好きだし、アンティークの刺繍も好きだ。だからドレスを作るのかもしれない。ウエディングドレスではないドレスを。そうか。そういうのが好きだったのか。ドレスを作るのはただ綺麗だし、デザイナーを目指すきっかけたからだと思っていた。でも、その奥にあるのは歴史のあるものに惹かれる気持ちだったのか。と考えて思う。今、自分が住んでいる街は赤レンガの倉庫街があったり、石造りの古いビルが連立していたりする洋風の歴史のある街だ。アトリエと家をそこに決めたのはただ、好きだなと思ったからだった。ほんとなら東京を選ぶのだろう。この問屋街だって東京だ。でも、東京という街はどうも好きになれなくて、そこから電車で約1時間の街に決めた。その理由など考えたことがなかった。でも、この店主にはわかるんだな、とぼんやりと思った。
「そうだ。レース。とりあえず集められるだけのレースの端切れを集めるので、そうしたらまた来てください」
「うん。お願いします」
そう言って店を後にした。
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