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ドレス05
レースを探している吉澤さんにどうかと思って韓国からレースのサンプルを少し送って貰った。どちらも新しいものではあるけれど、アンテーク調なのでドレスに使えるのではないかと思って吉澤さんに連絡をした。すると翌日にはお店を訪れた。新しくドレスを作るという吉澤さんは最近よく店を訪れている。資材ひとつひとつを丁寧に選んでいく姿は妥協を許さないデザイナーの顔だった。
色々なレースを集めて吉澤さんに見て貰っているけれど、どれもピンとくるものがないらしい。真剣に探しているのだから、これ! というものが見つかればいいのだけど、どうだろうか。
胸元に飾る幅の狭いレースを決め、飾るボタンを決め、あとは本当に段の裾に使うレースを決めるだけになった。
「どうですか? ピンと来るのはありますか?」
「うーん……」
ほんの5枚のレースのサンプル。どうもピンとくるものがないらしい。ダメか……。少し残念に思いながら、持ってきてくれたドレスの原型の写真とデッサン画。今、うちの店にあるものは全て見て貰っているから、またどこかから仕入れるしかないけれど、どこから仕入れようか。吉澤さんに聞くと他の店でもレースを探しているらしいけれど、それでもピンとくるものはないらしい。国内の他の工場はあるだろうか。普段、生地を仕入れているところで、少しでもレースを扱っているところはあるだろうか? そう考えるけれど、考えつくところからはもう全てサンプルを貰っている。それで見つからないということは、国内では見つからないということだろう。それで韓国から送って貰った5枚はダメだった。でも、韓国の|東大門《トンデムン》は服飾資材がたくさんあるからレースももっとあるだろう。でも、韓国はどちらかというと流行のものの方が多いから、ドレスの資材となると韓国よりもヨーロッパの方が見つかるんじゃないだろうか。イタリア、フランス……。パリは資材の集まったエリアがあるだけでなく蚤の市もある。蚤の市では、お店では見かけないようなアンティークなものがたくさん見られる。そうだ。パリで仕入れるのはどうだろう。蚤の市じゃなくてもアンティークなレースはたくさんあるだろう。でも、パリで仕入れるのなら、あまり伝手がないから直接現地に行くことになる。それにはお店を閉めて行かなくてはいけない。いや、数日なら親父に店番して貰ってもいいか。早くに隠居したんだし、まだまだ働ける。そうだ。そうしてパリへ行こう。それでパリで見つからなかったらイタリア辺りへ飛んでもいい。イタリアもアンティークなものがたくさん集まる。そうだ。どうせ仕入れに行くのなら、俺じゃなくて吉澤さんに見て貰った方が早いと思った。
「多分ですけど、日本国内ではこれ以上見つからないと思います。だけどフランスやイタリアなら見つかる可能性も高いと思うんです。だからパリに行きませんか? パリは服飾資材店が集まるエリアがあるだけでなく、蚤の市があるので、ほんとのアンティークを仕入れることができます」
「パリに……ですか?」
「はい。モンマルトルに服飾資材店があるんです」
「モンマルトルの資材店には何回か行ったことがあります」
「アンティークなのあったでしょう。だから行ってみませんか。パリ」
「パリ……」
そう言うと吉澤さんは黙って視線を下に向けてしまう。なんだか辛そうな表情だ。なにか悪いことを言ってしまっただろうか。悪いこと、というよりなにか辛い思い出でもあるんだろうか。それこそ失恋した人に関する思い出が。もしそうだとしたら無理だろうか。それでも、疲れた顔をしてドレスを作っている吉澤さんを見ているのは辛い。原点のドレスを作っているというのに、辛そうだ。それならモードなものにたくさん触れることのできるパリはいいと思うんだ。それにパリでこれというレースに出会えなくても、それこそモードなフランスに行けば、なにか糧になると思うんだ。
「なにか思い出すと辛い思い出がありますか? イタリアという手もあるんですが、まずはパリかな、と思うんです。それでもしパリで見つからないのであればイタリアへ行きましょう。イタリアは生地で有名でレースとか小物はあまりないんです。それでも少しはあるだろうし」
「そう、ですよね。パリかイタリアかというなら、レースはパリですよね」
「ええ。行ったことがあるのならわかると思いますが、モンマルトルにはレースの専門店もあります。モードな都パリらしく、アンティークなものから先端のものまでたくさん揃っています。日本の比じゃないですよ」
なにか辛そうな表情の吉澤さんを追い詰めている気がするけれど、それでもせっかく作っているドレスを完成させてあげたい。スランプだと悲しく笑う顔を見たくない。明るい笑顔を見てみたい。だからパリへ誘う。
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