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パリ07

 生地を見て、どんな服が作れるのかパッとイメージがわく。じゃあ今、冬物のジャケットを作ってと言われたら、ここにあるコールテンでジャケットが作れる。ボタンに遊び心を持たせて、デザインはあくまでシンプルに。アイデアはきちんとわく。あんなにアイデアがでなくて作れなくて苦しかったけれど、今ならドレスも普通の服も作れる。そう思うのが嬉しい。 「吉澤さん?! どうしたんですか?」  店主と話していた淳さんが僕の涙を見てびっくりしている。そうだろう。だってさっきまでなんでもなかった僕が1人で涙を流しているんだから。店主も驚いた顔で僕を見ている。2人に見られて恥ずかしくなり、涙を拭いた。 「びっくりさせてごめんなさい。ちょっと嬉しくて」  僕のその言葉に淳さんは気づいたらしい。 「もしかしてアイデア浮かぶようになりました?」 「はい」  僕がそう答えると淳さんは大きな笑顔を浮かべる。今まで服のアイデアがわかないどころか、レースひとつ決められなかったんだ。それがレースを決め、アイデアもわいたと言うんだから。でも、それを淳さんも嬉しいと思ってくれるのか。その笑顔が嬉しかった。 『おいおいなんだって言うんだ?』  そこで僕と淳さんは日本語で話していたと気づく。だから僕はフランス語で店主に話した。 『なにも浮かばない。作れない。スランプだったんですよ。でも、ここの生地を見て閃いたんです』 『素晴らしい! そしてうちの生地を見てだなんて嬉しい。デザイナーは生地いらないか? 資材はいらないか? 安くするぞ』  店主までもが喜んでくれて恥ずかしくなる。 『もう全ての資材は揃ってるよ。ひとつを覗いて俺が揃えた。最後のピースは一昨日揃った』 『残念。もし必要なものがあったら声をかけてくれ。これ、うちの名刺だ』    そう言ってレジ横から名刺を1枚取って手渡してくれる。そこで僕も財布から名刺を取り出す。日本語と英語で書かれているから、英語の方は大丈夫だろうと思い、そのまま渡す。いつも財布に入れていて良かった。いつ必要になるかわからないから入れてあるのだ。 『ユウマ・ヨシザワ。いい名前だな。フランスに来ることはあるか?』 『年に1回、パリコレのときに来ます』 『素晴らしい! そのときはぜひ寄ってくれ』 『ありがとうございます。寄らせて貰います』 『ジュン。今日は素晴らしい日だ。少し割引するぞ』 『え? 俺があやかっていいの? じゃあ他の資材もまとめて買っていこう』  そう言って淳さんは店内の生地を色々見ていく。 「コールテンって今年出ます?」 「出てるんじゃないかな? 冬物で使ってます。」 「じゃあコールテンと、あとはコットンを買っていこうかな。春になればコットンも出るし。あぁ、あとはファスナーだな」  淳さんはそう言って次から次へと決めていく。 「吉澤さんが女神だったから色々買えます」  そう真面目な顔をして言うから思わず笑ってしまう。そして笑っている自分にも驚く。そう言えば数日前にも笑った。ずっと死んだような顔をしていたから笑っている自分に驚く。淳さんといると笑えるみたいだ。淳さんが心地いいから。  そしてその淳さんはというと会計をしていた。かなり買ったらしい。 「お待たせしました。行きましょうか」 「はい」 『ユウマ! また来てくれよ。買わなくてもいい』 『ありがとうございます。また来ます』 『俺も来るよ』 『ジュンもな。気をつけて』  店を出る足は軽い。さっきはあんなに足が重かったのに。 「コーヒーでも飲みましょうか?」 「近くにいい店がありますよ。俺がよく行くカフェです」 「じゃあそこに行きましょう」  笑ったあとは、行きつけの店に淳さんと行こうとしている。もちろんそこは湊斗くんとの思い出がある。だけど、今の僕なら行ける。そう思った。だから言った。 「なんだか他の店で買うものも買っちゃいましたよ。でもとりあえず、コーヒーを飲んだら、もう一店寄らせてください。いい革を置いている店があるんです」 「Aomi屋さん、革も扱ってるんですか?」 「ほんの少しですけどね。一応一通り置いてあるんです」  普通の生地と副資材があるだけだと思っていた。考えてみれば革を見ることはないから知らなかった。  先ほど来た道へ戻り、僕が行ったことのある店の方へ少し歩いていくと、僕が行きつけのカフェはある。ここはスイーツも軽食も美味しい。 「どうします? 中にします?」  通りにテーブルは出されているけれど、この寒さの中座っているのは辛い。それでも外のテーブル席に座っている客がいるのはすごいとしか言えない。 「中にしましょう。窓際に」  そう言って店内に入り、窓際の席に座る。 「俺は今日は普通にコーヒーにしよう。吉澤さんはどうします?」 「僕はカフェ・クレームで」  ギャルソンと目があうとすぐに注文を取りに来た。日本ではいつもブラックだけどパリではカフェ・クレームを飲むことが多い。 「いや。でもほんとたくさん買ったな。日本に帰ったら大変だ」  確かにたくさん買っていたから、帰国したら全て出すのだから一苦労だろう。 「でも、復活ですか?」 「多分。生地を見て絵が浮かんだから、なにか作ろうと思ってもアイデアは出ると思います」 「それが出なかったんですよね?」 「はい。今作ってるドレスもアイデアでなくて、ドレスを見に行ってさらに3日かかりましたから」 「そうか。それなら大丈夫ですね。なんだか俺まで嬉しくなりました」  そう言って笑ってくれる淳さんに心が温かくなった。 

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