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再生02

 パリから帰ってきてから1週間。帰国後は買付けたものの整理で大変だったけれど、4日目には落ち着いていつも通りレジのところに腰を下ろし店番をしている。帰国後、吉澤さんが店に来ることはなかったし、連絡もない。いや、店に来ることは、生地が足りなければ来るだろうけれど、そうでなければ来る用事がない。最後の最後まで探していたレースがパリで見つかったのだから。ということは今はドレスの仕上げに忙しいんだろうな。そうは思うけれど、吉澤さんが来ないのはなんだか寂しい。ドレスを作ると言って初めて来店したときから、ほとんど1週間に1回は来ていたから。だから来ないというのがなんだか物足りないし、寂しいんだ。よっぽどメッセージでも送ってみようかなとも思ったけれど、ドレス作りに忙しいのなら邪魔をしたら申し訳ない。以前、見せて貰った写真はドレスの原型は出来ていた。あとは仕上げていくだけだけど、コサージュでドレスを飾ると言っていたから、もしかしてコサージュ作りで時間がかかっているのかもしれない。でも、あの原型からはどれくらいで出来上がるんだろう。ドレスなんて作ったことがないから、どれくらい時間がかかるのかさっぱりわからない。  だけどふと思った。吉澤さんはドレスを売り物ではなく、個人的に作っていると言っていた。普段は国内ブランドのデザイナーの仕事をしていると言っていた。ということは、普段はわざわざ生地を買いにくることはあるんだろうか? デザイナーなんて吉澤さんが初めてだったから、どこからどこまでがデザイナーの仕事なのかわからない。もし、作ることがなかったら、もううちの店に来ることはなくなるということだ。それが寂しいと思った。  初めて店を訪れてから、1週間に1度は店に来ていたから、それ以上間が開いたことなんてないんだ。当然メッセージも1週間に1度はやりとりしていた。ドレスはどうなっただろう。もう出来上がったのか、それともまだなのか。気になる。吉澤さんが買っていった資材でどんなドレスが出来るのかが気になる。でも、一番は吉澤さんに会いたい、ということだった。  え? 会いたい?  それは1週間に1度は会っていたから? パリへも一緒に行って、少し距離が縮まった気がしていたから?   1週間に1度は会っていたし、距離が縮まった気がするのも正解だろう。でも、それだけだろうか? 生地のことがなくても連絡したいし、会いたい。これは……。この感情は……。まさか好きになっていた? いや、相手男の人だし。なんなら顔面偏差値破壊レベルの高さだけど。いや、だからこそおかしいだろ。男の人を好きになるとか。今まで好きになっていたのは女性だ。なのになぜイケメンを好きになるかな? それともイケメンは男をもその気にさせちゃうんだろうか? わからない。いや、その前に好きになるのに条件で好きになるわけじゃない。イケメンだろうが美女であろうが、好きになっちゃうときは好きになっちゃうんだろう。  ああ。もう! 連絡してみればいいんだ。とりあえず今は、ドレスの進捗状況を訊けばいいじゃないか。それで、もし足りないものがあったら、またいつでもどうぞって言えばいいんだ。  そう思ってスマホを手に取る。取ってメッセージアプリを立ち上げるまでは良かった。けれど、そこまで来て、手が止まってしまう。だから進捗状況を訊くだけだ。資材が足りているか訊くだけだ。それくらい訊くのになんでこんなに躊躇してしまうんだろうか。会いたいという思いが邪魔をしているんだろうか。だって、連絡をする先にあるのは”会いたい”ということだから。ドレスの進捗状況を訊いて、もし出来上がったというなら、見せてくださいって言えばいいんじゃないか? 確かにデザイン画は見せて貰ったし、ドレスの原型の写真も見せて貰った。だから、なんとなく、こんな感じかな? とは思い描ける。それでも本物は違うだろう。どれだけ華やかなドレスになったんだろうか。そうだ。だから出来上がったら見せてくださいっていうのはおかしなことじゃない。それなのにメッセージを打つはずの右手は止まったままだ。なにをそんなに躊躇しているんだろう。そこにドレスを見たいだけじゃない邪な思いがあるから? 恐らくそうなんだろう。でも、好きとかいうのはもうどうしようもないんだから、捨て置いて。だって男同士なんだ。これ以上前に進めるわけがないんだから。だから純粋にドレスの進捗状況を訊くだけでいい。それで見せて貰って、この思いは封をして仕舞い込めばいい。そうすればいつか忘れてしまうから。だから今は進捗状況を訊こう。  そう思ってメッセージを打とうとしたら、そこに吉澤さんからメッセージが来た。 『ドレスが出来ました。良かったら見に来ませんか?』  まさしく俺が訊こうと思っていたことだ。完成していたのか。そう思ってさっそく返事を打つ。 『ぜひ見させてください。いつならいいですか?』  そう送信すると、すぐに返事が来た。 『僕はいつでもいいので、淳さんの都合の良いときにでも』  都合の良いとき……。となると店が休みの日曜だ。 『次の日曜でもいいですか? 店が休みなので』 『わかりました。アトリエの住所送ります』  そうして住所が送られて来た。これで日曜日に会える。そう思ったら気持ちが上向いた。

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