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再生03
淳さんにメッセージを送って、日曜日の今日来ることになっている。時間的にはそろそろ来る時間で、僕はアトリエの中でウロウロしている。淳さんが来るということで気持ちは跳ねていて落ち着かない。会えるのが嬉しいんだ。だからこそ気持ちが跳ねるんだ。時計を見ては、まだだろうかと思い、何度も確認してしまう。1分がこんなに長く感じるなんて。
湊斗くんと会うときも楽しみで胸が踊ったけれど、淳さんに対しても同じだ。いや、時間が過ぎるのがこんなに遅く感じるのは湊斗くんのときにはなかったんじゃないだろうか。いや、待ち合わせをしたことがないからよくわからないけれど。
そんなふうに考えながら、落ち着きなくウロウロしているとインターホンが鳴った。来た! 玄関を開けるとそこには待っていた淳さんが立っていた。
「いらっしゃい。入って」
心臓は跳ねているけど、落ち着いて対応する。でないと変だと思われる。とにかく今は冷静に。
「あの、これ。店の近くで売っていたので。吉澤さん、パリで食べていたから、好きかなと思って買ってきました」
「ありがとう。マカロンってカラフルでコロンとしてて可愛いよね。ビジュアルが好きなんだ。今、コーヒー淹れるね」
買ったばかりのコーヒーメーカーに豆をセットする。今日はあまりクセのないブラジルだ。そしていただいたマカロンはお皿に出す。
「座ってください。すぐにコーヒー落ちるので」
「はい。デザイナーさんのアトリエって初めて来ました。っていうかデザイナーさんって吉澤さんしか知らないけど。お客さんの中にはいるのかもしれないけど」
「そうなの? それより散らかっててごめんね。これでも一応片付けたんだけど」
「いいえ。気にしないでください」
淳さんは、デザイナーのアトリエが初めてというからか、アトリエの中をきょろきょろと見ている。デザイナーのアトリエなんてデザイン画とミシン、トルソーくらいだ。僕にしては面白みのない部屋だ。特に部屋の中を飾ったりはしていない。真っ白な壁に真っ白な天井。カーテンさえかかってない。ほんとになにもない部屋。
「あのミシンで作るんですか?」
淳さんは長机の上に置かれたミシンを見て言う。
「そうです。小物の場合は手縫いもするけど、他はだいたいあのミシンで縫ってます。でも、今回はコサージュがあったから結構手縫いしたけど」
「あ、そうか。さすがにミシンじゃ作れませんもんね」
「ドレス見る?」
「はい。見たいです」
ほんとはゆっくりコーヒーを飲んでからと思ったけど、どこか落ち着きのない様子だったので、先にドレスを見せることにする。ドレスの上にかけてあった白い布を外すと、ドレスが現れる。すると、淳さんの目がキラキラと輝き、立ち上がってドレスに近づき、ゆっくりと見る。
「すごい! あの生地と資材が組み合わさったらこんなふうになるんですね。綺麗だ……。あれ? でも、あの蚤の市で見つけたレースはどこについてるんですか?」
「後ろに回ってみて。バッスルドレスだから後ろがすごいんだよ」
僕がそう言うと淳さんはドレスの後ろに回る。そうするとさっきよりも目が輝いた。
「うわー! 前から見ても綺麗だけど、後ろはすごいですね。なんでもありな感じだ」
「バッスルドレスは後ろ姿が勝負みたいなところがあるから」
「ほんとですね。こんなに後ろ姿が華やかなんてすごいです。ああ、でも、あのピンクのサテンがいい感じですね。それよりも、レースがいい。パリまで探しに行って良かったですね。こんなに綺麗なドレスに使われるなんて。でも、これはアンティークなレースじゃないと雰囲気は出ませんね」
「やっぱりそう思う? 普通のレースでもいいのかもしれないけど、なんだかアンティークな物が良かったんだよね」
「俺はドレスとか良くわからないけど、このドレスにはこのレースがあっている気がします。これを見ると、店で見つからなかったのもよくわかります」
そう感心したように頷く。良かった。あのレースは、あれで正解だったらしい。自分の中では正解だと思っていたけれど、スランプに陥っていた自分のチョイスだったから少し不安は残っていたんだ。でも、淳さんの目から見ても正解だったみたいでホッとする。
そこにコーヒーのいい香りがしてきた。コーヒーが落ちたみたいだ。
「コーヒー出来ましたよ」
「あ、ありがとうございます」
来客用のコーヒーカップにコーヒーをいれ、長机にカップを置く。
「テーブルがないから、ここですいません」
「あ、そんなのどこでもいいです。わざわざコーヒーメーカー置いているんだから、コーヒー好きなんですね」
「好きですね。息抜きに飲みます。でも以前は飲みに行ってたんですよ」
そう。コーヒー好きで飲みに行ってたからそこの店長さんを好きになっちゃったんだ。
「うわ。美味しい。俺、カフェで飲む以外はインスタントなんで、家でこんな美味しいの飲めるなんて。うちにも買おうかな」
「これは豆をセットするだけなので簡単ですよ」
「生地の問屋にコーヒーってなんだか不釣り合いな気もするけど」
そう言って笑う淳さんは仕事のときとは違う笑顔を浮かべていた。
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