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再生04
「このドレス好きだな。正面から見るだけでも品があって魅力的だけど、後ろを見るとすごく華やかだ」
淳さんが好きだと言ってくれたことが嬉しかった。スランプの中、これが正解なのかわからなくて描いた。実際に作り出してもわからなかった。パリへ行って、あのレースを見つけたことで僕の中のデザイナーとしての感性が動き出したけれど、それでもデザインをしたのがスランプ時だったし、感性も完全に動き出したわけではないから若干の不安は残ってて。だから淳さんが言ってくれた言葉が”これでいいんだよ”と言ってくれた気がして安心したし、嬉しかった。
「でも。吉澤さんみたいですね」
「え?」
僕っぽいとはなんだろう。その言葉の意味がわからなかった。
「吉澤さんって普段は品があって静かな気がするんだけど、服のことになると情熱的というか、そんな感じがします」
「そう、ですか?」
「はい。まぁ俺と話すのは基本的に服に関することなんだけど、お店でお茶してたときや、パリでコーヒー飲んだり、食事をしているときに話しをしている吉澤さんって品があって落ち着いてるなって思ったんです。だけど、レースを探しているときの吉澤さんからはすごく情熱が感じられたんです。それがこのドレスの後ろ姿っぽいなって」
バッスルドレスは後ろ姿が華やかだから、綺麗だと言ってくれる人はいるだろう。でも、正面からの姿と後ろ姿とを対比して話す人はいるんだろうか。というより、それが僕っぽいと言われるとは思わなかった。
「すいません。勝手な思い込みで」
僕がなにも言わないから、気分を害したとでも思ったのだろうか、淳さんが謝ってくる。
「あ、違うんです。そういう見方もできるんだなって。というより、僕、静かですか?」
「はい。暗いとかそういうのはないけど、話し方が穏やかっていうのかな? なんかそう感じるんです。もっとも、それは俺が見る吉澤さんなだけで、もっと親しい人と話すときは違うのかもしれないけど。いつもフラットな感じがするんです。あ、でもパリで笑ったときはちょっと違う吉澤さんを見れたなって思いました。それが素の吉澤さんなのかなと思ったりはするんですけど」
「あのとき、久しぶりに笑ったんです」
「……」
僕は今なにを言おうとしているんだろう。さらけだしていいんだろうか。
「失恋して、感性も死んだんですよね。服を見ても楽しくなかったし、なにをしても楽しいって思えなかったんです。だから笑うことなんてなかったんですよ。でも、淳さんとパリに行って資材を見て回って、楽しかったんです。パリ行きは決めたけど、レースを探すだけであって、楽しむことができるなんて思ってなかったんです。だけど、楽しかった。パリでいたのは、思い出のあるモンマルトルで、確かに辛いと思うこともありました。どうしても思い出してしまうから。でも、淳さんと歩いたモンマルトルは、別の街のようでした。モンマルトルっていう街はなにも変わっていないのに。違うのは僕の隣を歩く人だけで。でも、それだけで街が全然違うように感じたんです。もっとも僕の定宿の前を通るのだけはちょっと怖かったけど。でも淳さんの隣を歩くのは楽しかった」
僕はなにを言っているんだろう。こんなの好きだと言っているのと同じじゃないか。だけど、言ってもいいのかもしれない。別にこの想いが実るなんて思ってないし。ただ、今後Aomi屋さんに足を運ぶのがちょっとバツが悪くなるだけで。でも、問屋街へ行くことはそんなに多くないからな、と言い訳をする。
「だからパリ行きを提案してくれてありがとうございました。あのとき誘って貰えなかったら、きっと1人では行かれなかったと思います。でも、これで1人でもパリに行かれる。そう思わせてくれたのは淳さんのおかげです。淳さんと行って楽しいと思えて、楽しい思い出ができたから、1人でも行かれると思えたんです。隣を歩いてくれてありがとうございました」
「別に感謝されることはしてませんよ。それでも楽しかったと言って貰えるのなら良かったです。これで次回のパリコレに行かれるのなら、俺も少しは役に立てたんですかね」
そう言って淳さんは穏やかに笑う。
ああ、こんな言葉じゃ伝わらない。きちんとした言葉じゃないと。
「淳さんと過ごす時間、好きです。淳さんと街を歩くのも楽しくて好きです。淳さんが好きです。これからも僕の隣にいてくれませんか?」
流れに乗せて言った。切ってしまったら伝えられないと思ったから。そして、僕の言葉を聞いた淳さんは目を大きくした。
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