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第5話 ブルース

 恭司の家はボロいアパートだった。 「ただいま。おふくろ、友達連れて来たぞ。」  奥から下着のようなキャミソール姿の疲れた女が出て来た。チラリと見えた太ももに刺青がある。リキは目のやり場に困った。 「おふくろ、彼が成績優秀な犬遠藤くんだよ。 大学生になるんだ。」 「学士様と友達なんだね。  なかよくしてやってね。」  タバコを咥えてふかしながら母親が言った。 家は荒んでいた。父親はいるのか?  昼間から下着姿でゴロゴロしている母親を恭司が恥じているのがリキにもわかった。 「座ってくれ。」 冷蔵庫から瓶のコーラを2本出して来た。冷えた瓶のコーラは美味かった。  今日は卒業式だったがこの家にはお祝いムードはかけらもなかった。 「恭司、おまえいつから斎田さんの所で働くんだよ。少し前借り出来ないかね。」 「まだ働いてもいないのに無理だよ、 何の仕事かもわからないのに。」 「ああ、たぶんキリトリだろ。 借金取り。組の仕事、手伝うんだろ。」  母親は息子がヤクザの仕事をさせられる事を了解していた。 「あんた、それギターだろ。 なんか弾いてよ。弾いて歌って。」  リキは初めて人前でギターを弾いた。 何か母親世代にウケる歌謡曲を考えた。  うろ覚えの歌謡曲をポロポロと爪弾くと、母親がいい声で口ずさんだのは、浅川マキバージョンの「朝日の当たる家」だった。  大人を舐めていた。こんなおばさんは歌謡曲しか興味ないだろう、と思い込んでいた。  切ない歌声が何の衒いも無く淡々と歌われる。 足が震えた。これがブルース!  明日からヤクザにゲソを入れる息子の門出に歌う母親の歌。  流されて娼婦になる女の歌。 リキは涙を流した。 「あんた、何で泣いてんの? そんなにアタシの歌に感動したかい?」 「おふくろ、ふざけんなよ。 下手くそな歌はやめろよ。」

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