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俺が花嫁になる
しかし、そんな巫女との別れは突然訪れる。
それは凪が十三になった年の出来事だった。まだ生きることができるはずだった巫女が、突然息を引き取ったのだ。
巫女は役目を終えてから二百年近く生きるとされているのが、その巫女が神社に戻ってきてからまだ五十年もたっていない。その早すぎる死に、村中がどよめきたった。
「なぜ巫女が亡くなったのだ。あまりにも早すぎるではないか?」
「巫女の死と湯量が減ったことと、何か関係があるのだろうか?」
「また新しい花嫁をたてなければ……湯玄様がお怒りになってしまう……」
「そうだ。湯玄様のお怒りを買えば、源泉が枯れ果ててしまう。早く新しい巫女を!」
村人たちは予想もしていなかった巫女の死に戸惑いつつも、早くも新しい花嫁をたてることへ躍起になり始めている。
巫女の葬儀は厳かに行われたが、凪は悲しかった。あんなに優しかった巫女が死んでしまったことを、凪は受け入れることができなかったのだ。
巫女の葬儀が終わった数日後。
椿屋の大広間に若い娘が集められ、新しい花嫁を決める話し合いが行われる。凪はその場の雰囲気に圧倒されながらも、固唾をのんでその様子を見守っていた。
花嫁は若く美しい娘でなければならないのなら、凪はどうあがいても役にたてそうにない。
大人たちは皆、目を真っ赤にして、誰を次の花嫁にするか討論を始める。それも無理はないだろう。巫女が亡くなってからというもの、源泉から湧き出る温泉は目に見えて減ってきているのだから。
「誰か花嫁に志願する者はいないのか⁉ この湯滝村を守るためにその身を捧げるのだ。こんなに光栄なことはないだろう!」
「馬鹿を言うな! ここまで手塩にかけて育ててきた娘を、いくら湯の神といってもやすやすと捧げられるはずなどないだろうが⁉」
「ではどうしたらいいのだ⁉ このままでは源泉は枯れ果てて、湯滝村は廃れていってしまう。あの福寿村 のように……」
福寿村という村の名前を、凪はこのとき初めて聞いた。だがそんなことより、大勢の大人と年頃の娘が一堂に集まり、口論している姿を見ているのは辛かった。
凪の父親など、膝の上で拳を作り俯いたまま顔すら上げられないでいる。そんな父親の姿も酷く痛々しい。
きっとこのまま花嫁を捧げなければ湯玄の怒りを買い、源泉は枯れ果ててしまうだろう。そうなれば、きっと椿屋も大打撃を受けることになる。
先代からずっと引き継がれ、両親が大切に切り盛りをしてきた椿屋が廃業になってしまう……そう考えるだけで、凪の心が締め付けられるように痛む。
――どうしたらいいんだろう。俺にできることは……。
凪は唇を噛み締める。
先程まであんなに罵倒が飛び交っていた大広間が、うって変わって恐ろしいほどの沈黙に包まれていた。
花嫁に自ら志願する者などいるはずもない。その静けさがビリビリと痛いくらいに感じられた。
――ならいっそのこと俺が……。
凪は拳をギュッと握り締めてから、深く息を吸う。そして静かに目を開いた。
幼い頃から凪は美形だと評判だ。まるで天女のように美しいと、皆がその容姿を称賛する。
――俺は男だけれど、花嫁になれないだろうか? もし俺が花嫁になることができたら、もう一度湯玄様に会える。もう一度会いたい、あの人に……。
凪の心が固まった瞬間だった。
「俺が湯玄様の花嫁になる」
「なんだと……」
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