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眠っていた源泉
凪は湯玄の柔らかい唇と、熱い舌に陶酔してしまった。頭の芯がジンジンと痺れて、頭がボーッとしてくる。膝がガクンと折れて、崩れ落ちそうになった凪の体を湯玄が抱き留めてくれたから、凪は無我夢中でその逞しい体にしがみついた。
「ん、んん、ふぁ……」
「凪、気持ちいいか?」
「うん、気持ちいい。ねぇ、もっと……もっと口付けして……」
「フフッ、其方は本当に愛おしい」
柔らかく微笑む湯玄に、もう一度唇を奪われる。その絹のような柔らかな感触に、凪の体と湯石が、どんどん熱を帯びていった。
それと同時に、湯福寺の神殿に置かれている石が赤く光り出す。石の割れ目から覗く真っ赤な光は、溶岩のようにも見えた。
「凪……」
「え? なに……?」
湯玄が凪の髪を撫でた瞬間。地響きが起こり、辺りが熱風に包まれる。ゴゴゴゴッと枯れ果てた池にひびが入り、そこから勢いよく温泉が噴き出した。湯滝村の温泉の色とは違い、雪のように真っ白な温泉はとめどなく溢れ続ける。
そんな美しい光景を、凪は呆然と見つめた。
「やはり、其方には不思議な力があるのかもしれないな」
湯玄がポツリと呟く。
枯れ果てていた池は、いつしか豊富な湯を讃えて、まるで湯畑のようになっていた。真っ白な温泉は雪景色にとても映える。きっと大昔、この村はこんなにも豊富な温泉に恵まれていたのだろう。
熱い湯気を吹き出しながら湧き出し続ける源泉を見つめていた凪は、ふと湯庵のことを思い出したのだった。
「凪よ、椿屋へ戻ろう」
「うん」
湯玄に手を引かれながら、凪は椿屋へと引き返す。先程まで氷のように冷たかった凪の手は、今はとても温かい。もしかしたら温泉の神である湯玄は、普通の人間より体温が高いのかもしれない。凪は、ぼんやりとそう思った。
なかなか帰って来ない凪を心配した泰富や虎徹、それに佐之助が玄関で凪の帰りを待っていてくれたようだ。
「あ、凪だ! 凪が帰って来たよ!」
虎徹の嬉しそうな声が玄関に響き渡り、泰富と佐之助は安堵の笑みを浮かべている。その中にちゃっかりと義盛も混ざっていて、凪はびっくりしてしまった。
凪の姿を見た義盛がニコッと豪快に笑う。その笑顔があまりにも無邪気で、凪は怒る気も失せてしまった。
「いやぁ、二人が痴話喧嘩をする仲だとは知らなかったんだ。悪かったな、恋路を邪魔しちまって! ほら、これを凪に授けよう」
義盛がすまなそうな顔をしながら、例の酒器を凪の前に差し出した。それを見た凪の顔が一瞬で明るくなる。
「これって、もしかして……」
「そうだ。俺お手製の万病にも効く酒だ。これをお前の父親に呑ませれば、たちどころに病も治ることだろう」
「ありがとう、義盛様!」
凪は義盛から受け取った酒器を大事に抱える。これで父親が元気になるんだ……そう思うと、凪の胸が熱くなった。
「よかったな、凪」
「うん!」
そんな凪を見て、嬉しそうに湯玄は微笑んだ。
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