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俺は出来損ないの花嫁だ

「湯玄様‼」   凪は悲痛な声を上げながら、空から落ちてくる湯玄の体を受け止める。湯玄を受け止めた衝撃はすさまじいもので、凪は「グァッ!」と悲鳴を上げる。全身の骨が粉々に砕けてしまったかのように体中が痛んだ。  湯玄は先程までの獅子の姿ではなく、凪が見慣れた人間の姿だった。しかし、唯一残された耳と尾が力なく垂れ下がっている。  辺りを見渡し湯庵の姿を見つけるが、意識を失っているだけで呼吸はしているようだ。  それよりも、湯玄のほうが目に見えて危険な状況である。 「湯玄様、湯玄様‼」  湯玄の逞しい体を抱き上げ、そっと体を揺らす。脱力しきった湯玄の腕がダランと地面に落ちた。その光景に凪の体から血の気が引いていく。 「なんだ、これ……」   自分の手に温かくてぬるぬるしたものが纏わりつく感覚に、思わず顔を顰める。恐る恐る自分の手を見た凪は思わず呼吸が止まった。 「血だ……」  凪の手がカタカタと小さく震える。抱き上げた湯玄の腹には深い傷があり、そこからおびただしい量の血液が流れ出していた。仰天してしまった凪は、自分の着物の袖を口で破り、その傷に押し当てる。  神とは不死身なのだろうか? 凪の心が不安で埋め尽くされる。こんなに出血をすれば、普通の人間であれば恐らく命を落としてしまうことだろう。そう考えると、凪は半狂乱になってしまいそうになる。 「お願い、湯玄様。死なないで……お願いだ……」  凪の着物は湯玄の血液で真っ赤に染まり、地面には血だまりができている。でも凪は湯玄の傍にいることしかできない。歯痒くて、苦しくて……。 「わ゛ぁぁぁぁ‼」  大声で泣きながら力任せに湯玄を抱き締めた。凪の頬を大粒の涙が流れ、鼻水で顔はグチャグチャだ。でもそんなことはどうでもいい。凪は声を上げて泣き続けた。  そんな凪の傍に寄り添い、紅さんと青さんが「クーンクーン」と心細そうな声で鳴いている。 「何が夕凪の生まれ変わりだよ⁉ 夕凪は湯玄様を助けることができたのに、俺には何もできないじゃないか!? 俺は、本当に出来損ないの花嫁だ‼ わぁぁぁぁ‼ 湯玄様、湯玄様ぁ‼」  空からヒラヒラと粉雪が舞い始め、音もなく地面に吸い込まれていく。  どんなに泣いても湯玄が目を覚ますことなんてない。体は氷のように冷え切って、獅子だった時の耳と尾が力なく垂れ下がっていた。 「湯玄様、戻って来て……」  凪は静かに湯玄に口付ける。いつも温かかった湯玄の唇からは全く体温が感じられない。それが悲しくて、凪はもう一度湯玄を抱き締めた。 「湯玄様、俺の生力を受け取って……! 俺の生力を全部あげるから。俺はあんたが元気になってくれるんだったら死んでも構わない……! だから、受け取ってくれ……!」  繰り返し湯玄に口付ける凪が持つ湯石が、徐々に熱を帯び始める。先程まであんなに冷たかった湯石の変化に、凪は思わず目を見開いた。 「もしかしたら……」  震える手で湯石を懐から取り出すと淡い光を放っている。どんどん熱くなっていく湯石は、心臓のように拍動を打っているようにも感じられた。  もしかしたら湯玄が息を吹き返すのではないだろうか……凪は祈るような思いで湯玄を見つめる。雪が湯玄の頬に落ちて、スッと消えていった。  ――パリンッ‼  静かな空間に、硝子が割れるような音が響き渡る。ハッとした凪が手の中にある湯石を見ると、真っ二つに割れてしまっていた。それを見た凪は絶句する。  やっぱり湯玄は助からないのではないか……最悪の結末が凪の頭の中を過っていった。  凪の手の中から、二つに割れた湯石がコロンと地面に転がり落ちる。そんな様子を、呆然と眺めた時だった。

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