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第四話 『終焉の悲歌』と『子羊のステップ』と立場の交換

天界の最上層、高貴なる「祈りの塔」はまるで断崖のようだった。 その頂きで聖歌隊のリーダーである大天使ラファエルは、指先を天に向け、時を止めた氷の彫刻のように背筋を伸ばし、遥か頭上の神の座を見つめて歌う。 それは、血を吐くような悲壮な聖歌――『終焉の悲歌』の旋律だった。 「紅き灰に まみれし大地 流るる涙は 大河となりて 飢えし迷い子は 街角に伏せる 主よ 憐れみを 沈黙のなかに 我らを遺棄し給うな」 「この叫びは 虚空に消えゆくのみか」 「主よ 憐れみを 沈黙のなかに 我らを遺棄し給うな」 魂を削って歌えば歌うほどに、ラファエルの神への不信の闇は胸に積もる。ミサを終えたラファエルは足速に帰路へとついた。 「ラファエル様、お帰りなさいませ。本日の聖歌もまた見事で――」 出迎えた屋敷の使用人たちの言葉が、ラファエルには虚無に聞こえる。 (はやく、ルウに会わなければ………) 「私の部屋には誰も近づくな。一歩もだ」 一目散に最奥の寝室へと向かい、重厚な扉を固く閉ざす。 その瞬間、張り詰めていた完璧な大天使の仮面が嘘のように崩れ落ち、彼の顔に緩んだ笑みが浮かんだ。 「ルウ、ただいま。寂しかったかい?」 ベッドの上では、一回り体が大きくなったルウが、ラファエルの帰りを待っていた。長くなった角は、くるんとカーブを描き、灰色のマントから、少年のしなやかな手足を伸ばしている。 「大天使様……! おかえりなさい!」 ルウが喜んで無邪気に駆け寄ると、ラファエルはまるでお気に入りのぬいぐるみにするように、ルウを後ろから包んで抱きしめた。ルウの黒い巻き毛に顔を埋ずめて、思いきり息を吸い込む。 「はぁー、癒される………」 誰にも見せられない、大天使ラファエルの姿だった。 「可愛いルウ、アレを歌ってよ」 「あれ………?ああ、『子羊のステップ』ですね!」 ルウはラファエルの求めるリクエストをすぐに察知して、歌い出す。 「みどりの まきばの ちいさなひつじ ぴょんぴょんはねて ステップふめば」 ルウは腰に手を当てて、小首を傾げ足をトントンと踏み鳴らす。 「おひさま にっこり あたまをなでる」 歌いながら尻尾とお尻を振り振り、片方の手を首の後ろに、上半身をよじって振り向いてみせる。 「神さまの めぐみのなかで おどろうよ くるくる あしをならして」 ルウがにっこりと小さな黒い羽をパタパタさせた。 2番から、ラファエルまでハミングで参加して、ルウのうなじや耳元に唇を近づけ、小さなカウンターテナーで歌った。 「神さまの あいのなかで うたおうよ ふふふん こえを合わせて」 ラファエルがふざけて、ルウの頭に顎を乗せると、歌声の振動に、ルウが「くすぐったいです!」と身をよじってクスクス笑い出す。 ルウの歌声が止まり、2人は顔を見合わせて大笑いになる。 ラファエルの胸の黒いもやと、羽から立ち上る煤のような煙が、しゅるしゅるとルウへと吸い込まれてゆく。 ラファエルの羽は眩しく白く高潔を取り戻し、ルウの体はまた一回り大きくなった。肌はより褐色に染まり、爪は鋭い鉤のように成長した。 (ルウの成長が速すぎる………) ラファエルはそう訝しんだものの、目を逸らした。

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