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第五話 心配性のお節介な密告の効能
廊下の物陰で、屋敷の使用人たちがヒソヒソと声を潜めて噂し合っている。
「最近のラファエル様は、帰宅されるとすぐに寝室に籠られる………」
「お食事もご自身で運ばれるし、一体、部屋の中で何をしていらっしゃるのかしら」
彼らは疑惑の眼差しで、主人が悪魔の子どもを連れ込んだまま、開けようとしない厚い扉をじっと見つめていた。
その開かずの扉の中では、ラファエルの神への絶望の闇を、自身の力に取り込んだルウが、大きく成長を遂げていた。
ルウは艶やかな褐色の肌の下に逞しく引き締まった筋肉を蓄えた、青年の姿になっていた。小さかった角は禍々しく太くうねり、その背はすでにラファエルよりも高かった。
ルウはラファエルの闇を飲み込むと共に、その流れ込む思念から、天界の摂理とラファエルの苦悩を理解していた。
「ラファエル様は、服を脱がなくていいよ」
ベッドの上でラファエルを組み敷く、大人になった悪魔は、小さな頃のマントなど着られるはずもなく、全裸だった。
「性愛は、罪………なんだよね。だったら俺の爪を舐めてよ。これは性愛じゃないよね?」
「駄目だ、ルウ」ラファエルは言ったが、威厳はまるで失われていた。
ルウはラファエルの喉仏に唇を押し付け、「喉を噛み切ることも出来るんだよ?」と言った。
神に歌を捧げる役目のラファエルは、喉を引き合いに出されると、渋々といった風に、ルウの大きな鉤のような黒い爪を、舌を出して、ペロッと舐めた。
「すごく良いよ、ラファエル様。今度は、ラファエル様が俺の角を咥えるところを見てみたいな」ルウが子どものように、おねだりする。
「そうだ、鏡があれば、俺にも見える」ルウは大きな鏡をいくつも持って来て、合わせ鏡にして置いた、その中心にラファエルを立たせる。
鏡の中に何体もの、ルウとラファエルの顔が映るが、みんな明後日の方を向いて、視線が合わない。
ラファエルは目を閉じて、ルウの角の先端に舌を這わせて、咥え込む。ルウのザラザラの反り返った角が、ラファエルの上顎を刺激し、快感を、拾いそうになる。
ルウはそんなラファエルの様子を鏡越しにねぶるように見ている。
「もう、これ以上は………、嫌だ………」
ラファエルの美しい瞳から、拒絶の涙が溢れ出る。しかし、それさえもルウの舌に拭いとられ、飲み下される。
「ごめんね、ラファエル様。俺はラファエル様の立場を悪くしようなんて思っていない」
ルウはラファエルの銀の長い髪をそっと撫でて、自分の豊かなウェーブの黒髪が触れる程に顔を近づける。
「でも、俺はこの部屋から出られないし、ラファエル様が構ってくれなかったら、………爆発するよっ……!」
ルウの顔が辛そうに歪む。
ルウはラファエルを抱き上げて、再びベッドに寝かせる。ラファエルの身体に覆い被さり、ラファエルの服の下に腕を入れ、身体中を愛撫する。
「はぁ……ん、駄目ぇ………っ」
「ラファエル様は、俺が何をしても駄目ばっかりっ……!」
ルウは怒ったように、堪らないように目を細めた。
ラファエルがルウの引き締まった背中に白い腕を回して、引き寄せた。
その時だった。
トントン、トントン………
二人だけの楽園だったはずの部屋に、ノックの音が入り込んで来た。
「ラファエル様!あまりに長い時間、お姿が見えませんので――!」
心配した使用人が、制止の声を無視して、寝室のドアを僅かに開けてしまったのだ。
隙間から中を覗いた使用人の目が、恐怖に丸くなってゆく。
豪奢な天蓋付きベッドの中。息を乱した大天使ラファエルの上に跨っているのは、一糸纏わぬ妖艶な褐色の肌に、うねる黒髪の中に禍々しい角を持った、圧倒的な魔力を放つ美しい悪魔の青年だった。
「ひっ、………あ、悪魔………!ラファエル様のベッドに、悪魔の怪物が――!!」
使用人の悲鳴が、白亜の屋敷中に響き渡った。
静寂は引き裂かれた。天使局に通報され、天界の守備隊が即座に踏み込む。強大な魔力を有するルウは、幾重もの魔封じの鎖で拘束された。
兵士たちに連行されて行く間際。ルウは振り返り、絶望で固まったラファエルを見つめると、すぐに前を向いて、その褐色の顔に微塵も怯えを見せなかった。まるで自己の中に揺るぎない信念を持つ、殉教者のような態度だった。
翌朝、ラファエルの元にルウの諮問会の通達が入った。
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