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第六話 ルウの諮問会とラファエルの鉄仮面
裁きの場である審問殿の天窓から、厳粛な光が垂直に降り注いでいる。ルウはその光の下に連行されて来た。
ルウは小さい頃と同じように、灰色のマントを身にまとっていた。それは、天界からも、悪魔にとっても、罪人を意味する囚人服だった。
正面の議長席を見上げるルウの視線の先に、三人の大天使が着席していた。中央の最も高い席には、大天使長であるガブリエルが、その両脇には、ミカエルと………、あのラファエルが完璧な大天使としての佇まいで腰かけていた。
ラファエルの気高い美貌は、昨日寝室でのルウの肉体の下で、快感に震えて涙を流していた者とは、到底思えなかった。ラファエルは涼やかに麗しく弧を描いた眉の形を、決して崩さない。
(まるで、別人だ………)とルウは思う。
「………諮問を始める」
ガブリエルの澄んだ声が、静まり返った審問殿に響き渡った。
「ルーシー・バーンと名乗る悪魔。汝は天界に侵入し、聖歌隊長ラファエルの神聖なる宮殿に保護された後、あろうことかその魔力をもって大天使を恐喝・侵食した疑いがかけられている」
ガブリエルは手元の審議書に視線を落として、息継ぎをした。
「第一の審議は、大天使ラファエルと、この悪魔との間における、不浄な関係――すなわち肉体関係の有無である」
審問殿の空気が一気に張り詰める。傍聴席に並ぶ天使たちの視線が、議長席の左側、ラファエルへと集まる。
天界において、悪魔との交わりは魂の完全なる汚濁を意味する。ましてや、神に最も近い歌声を捧げる大天使がその身を汚すなど、あってはならない大罪だった。
「ラファエル、汝の潔白をここに示せ」
ガブリエルに促され、ラファエルは静かに、その席から立ち上がった。
彼の表情はどこまでも透き通り、ラファエルが優雅な動作で、背に畳まれていた大きな翼をゆっくりと、審問殿の光の中に広げると………。
「おお………っ」
会場のあちこちから、息を呑むような感嘆の声が漏れた。
そこに現れたのは、目を灼くほどに美しい、完璧な純白の羽だった。汚れは、何一つ残っていなかった。ただ神の栄光だけを反射するような、圧倒的に清らかな輝きがそこにあった。
「………なんと見事な!」
「一点の曇りもない。これほどまでに高潔な羽を持つお方が、穢らわしい悪魔などと交わるはずがない」
天使たちは口々に囁き合った。
皮肉にも、この場の誰よりも立派で、誰よりも清浄なラファエルの羽。それこそが、何よりも確かな「無罪」の証拠だった。
ガブリエルはラファエルの純白の羽を見つめ、深く一度頷いた。
「第一の審議は、ラファエル、汝の存在そのものが証明した。悪魔ルーシー・バーンによるラファエルへの肉体的な侵食は、認められない。この大天使の清らかさこそが、交わりが一切なかったことの不変の真実である」
審問殿に安堵の空気が広がる。
「――では、第二の審議に移る」
ガブリエルは厳かに告げ、ルウの灰色の姿を冷徹な視線で見据えた。
「第二の審議は、なぜこの悪魔ルーシー・バーンが、天界に出現したのか――否、なぜ地獄から『追放』されたのか、その真の理由についてである」
審問殿の天使たちがざわめいた。
ガブリエルには、ある確信があった。
諮問会はまだまだ、これからだった。
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