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第七話 地獄の王と天使のペルソナ
議長のガブリエルが進行するルウの諮問会は続く。
「私はひとつの仮説を立てた。そして、それを検証するために、我が軍が捕縛した地獄の悪魔をここに連れてこさせよう」
ガブリエルが合図を送ると、天界の守備隊によって、完全に自由を奪われた一体の悪魔が審問殿へと引きずり込まれてきた。
その拘束されて身動き出来ない悪魔は、居並ぶ大天使たちよりも、ルウに警戒して、目を見開き視線を外そうとしなかった。
「私の懸念通りならば、このルーシー・バーンなる悪魔は、『悪魔の王』となる資質を持っている。地獄の王たちはその王座を脅かされることを恐れ、この怪物を天界へと追放したのだ」
ガブリエルの言葉を聞いたラファエルは、その美しい薄い唇にほんの少し力が入った。ラファエルの頭の中ですべてのピースが繋がろうとしていた。
「さあ、証明せよ」
ガブリエルが命じると、兵士たちは縛られた悪魔を、ルウの元へと無理矢理近づけた。
「やめろーっ!」
それだけで、捕虜の悪魔は恐れ慄き、血走った目をルウに向けて、近づくまいと足を踏ん張って耐えた。
「あああ、あああああーー!」
悪魔の体からドス黒い煙が立ち上り、まるで見えない渦に引き込まれていくように、ルウの灰色のマントの下へ、しゅるしゅると吸い込まれていく。
残された体は白く色が抜けて、ボロボロと崩れ落ち、白い灰だけが、大理石の床の上に残った。
傍聴席の天使たちは、息を呑み静まり返った。
「………なるほど。これが地獄の王たちが恐れた怪物。ご覧の通りだ」
ガブリエルは天使たちに同意を求める。
パチ、………パチ………パチパチ
天使たちは弾かれたように手を打ち、審問殿に拍手が響いた。
「この者は、底なしに闇の力を吸い取り、己の力に代える。地獄に留まれば、悪魔たちを吸収し続け、強大な『悪魔の王』と成っていたであろう」
ガブリエルは、灰色のマントの中でまた一回り筋肉が盛り上がり大きくなったルウから、ラファエルへと視線を移した。
ラファエルの耳には、消滅した悪魔の断末間の叫び声と共に、自分が触れたために仲間を殺してしまったルウの呻きが届いていた。この場にいる他の誰にも、聞こえていても理解が出来なかっただろう。
ガブリエルは体ごとラファエルの方へと向き直り、問う。
「聖歌隊長ラファエル。この者を『保護』し、間近で監視していた汝に判断を委ねよう。世界の調和を脅かすこの特異な悪魔の処分は、如何様に相当するだろうか?」
審問殿のすべての視線が、再びラファエルへと注がれる。
ラファエルは完璧な大天使のペルソナを被り、その下の感情を一滴も漏らさなかった。
ラファエルは自分の少し前の空間を見つめ、低く声を発した。
「神の愛を説くなどと、生ぬるいことでした。
これぼどの脅威、地下牢に永劫幽閉するべきでしょう。二度と表に出してはなりません」
ラファエルの仮面は神々しく美しかった。その銀の長い睫毛は微動だもせず、天からの光を受けて輝く。冷徹にして、完璧だった。
ルウは美し過ぎるラファエルの姿を、最期に目に焼き付けようと熱く見つめていた。
「悪魔ルーシー・バーンを、地下深くの最厳戒牢へと連行せよ!」
ガブリエルの命により、ルウは屈強な兵士たちに引き立てられていく。
「審理は終了した。これにて閉廷とする」
ガブリエルが一礼すると、天使たちは席から立ち上がり次々と審問殿から退廷して行った。
ラファエルは諮問会の終わりまで、演じ切った。
天使たちが去って静まり返った審問殿の奥。 居残ったガブリエルとミカエルの二人が、声を潜めて密談を交わしていた。
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