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第九話 地獄に一番近い場所、――堕天
カツン、カツンと、ラファエルが塔の中の長い石の階段を降りていく。途中、見張り役の下級天使とすれ違っても、大天使である彼を阻む者はいない。
天界は常に涼しく、地獄は灼熱だ。地下牢は天界においては地獄の底に一番近づく場所。一歩下りるごとに、ラファエルは不快な暑さを感じた。
そこは神の光が届かない、闇の中。
何も見えない。
「ルウ、ルウ。どこにいる?」
ラファエルが呼びかける。
「ラファエルさま………もう会えないかと思ってた」
小さなルウの声が聞こえる方角へと、ラファエルは歩を進めた。
ルウの周りにだけ、明かり取りの松明の炎が燃えている。
ルウは、巨大な獣のような大きさにまで成長していた。
牢屋の鉄の柱が立ち並ぶような檻は、ラファエルなら通れるが、ルウが通り抜ける事は出来そうになかった。
「ああ、ルウ」
ラファエルは軽々と鉄の柱の間を抜け、ルウにすがりついた。
松明の揺れる明かりが、二人を禍々しく照らし出す。
「私が、ルウを手離すはずないじゃないか。分かっている癖に」
「うん」
ルウが頷いて、優しくラファエルを抱きしめる。
「ラファエルさま、溜まってるね。アレやっとく?」
「あっ…」
ルウがラファエルの肩を抱き、額と額をこつんと合わせる。
ラファエルの溜まりに溜まった不浄がすべてルウに吸い上げられ、ラファエルは恍惚の表情を浮かべる。
「ラファエルさま、気持ちいいんだ……」
満足気に微笑んだルウの身体が、ムクリと、また一回り大きくなる。
ラファエルは、このままいけば、ルウの力は厳戒牢をも破れるのではないか?と思った。
その時、下級天使が巡回にやって来た。
「見回りご苦労」
ラファエルは堂々と聖母マリアのような笑みを作って見せたが、兵士は狂ったようにこう叫んだ。
「――この卑劣な獣め!
ラファエルさまを、己が檻の中へ引き込むとは!」
すぐさま下級天使は手に持っていた6尺の長槍を、ルウめがけて放り投げた。
ルウは逃げることが出来なかった。
ルウの身体は、狭い地下の厳戒牢いっぱいを埋め尽くすほどの大きさに育っていたのだ。
ルウは艶やかな黒鳥のような羽根を広げ、ラファエルを守るように包み込んだ。
騒ぎを聞きつけて、天使たちが皆その手に一本の槍を持ち雪崩混んで来る。
いっせいにルウに大槍を投げつけ、幾本もの槍がルウに突き刺さった。
「あ、あ、ルウが死んでしまう。」
ラファエルがルウの腕の中で、身を翻した。
(私は大丈夫だけど、ルウが危ない。)
「すまない、ガブリエル」
(私は君のように、組織の頂点に立って、システムを自分の手足のように動かすような芸当は出来なかった)
(一人で歌い続けているだけでは、何も出来なかった。何も変わらなかった)
(地下牢を壊す力も、この場にいる全員をなぎ倒す力もあるのに、天使でいたんじゃ、天使に攻撃は出来ない)
「私は変わる!」
そう宣言すると、ラファエルはルウの首筋に白い腕を巻き付け、グイッと顔を引き寄せるとその唇にキスをした。ルウが驚いて目を見開く。
その瞬間、大天使ラファエルの聖なる力が反転した。
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